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売上を伸ばすための基礎知識 販促の基本

セールスプロモーションとは何か? 企画立案のための全体概要

金 雲鎬(日本大学)

セールスプロモーションという言葉はよく使われていながら、その定義、分類について話せる人は少ない。メーカー、小売りなど、その主体によっても考え方、手法は変わってくる。知っておくべき基礎知識について、マーケティングなどを研究する著者が解説する。

セールスプロモーション(本文ではSPと表記します)は、実施段階のマーケティング活動である4P(product, price, promotion, place)の中のプロモーションのひとつです。プロモーションの中で、広告と人的販促活動を除いたものをSPと呼びますが、一般的に「消費者の購入を意図した、主に短期的なインセンティブ・ツールの集まり」と定義されます。

SPには、商業者が消費者を相手に行うものもあれば、生産者が商業者に行うものもあります。またクーポンのように、生産者と商業者の両方が活用するSPもありますが、最近は、電子チラシや位置情報連動型クーポン、オムニクーポンのように、デジタル技術の発達を背景に登場したSPに関心が高まっています。

このように見ていると、SPが複雑なマーケティング活動であることに気づきます。あるマーケティング現象が複雑であるほど、成果測定や成功要因を正確に分析することが難しくなります。この複雑でダイナミックに進化するSPをいかに捉えたらいいのでしょうか。まずSPの全体像をつかむことから始めましょう。図1にはビジネス現場でよく利用される10個のSP技法を取り上げて、いくつかの分類軸で整理してみました。

図1 セールスプロモーションの全体像

筆者作成

SPの全体像

■ 実施主体と相手

生産者が直接、消費者を相手に行う場合があります。クーポンやサンプリング、そしてプレミアム(おまけ)がその例です。そして生産者が実施するSPの中で、商業者を相手に行う代表的ものがリベートです。リベートには販売数量ベースと販促活動ベースの2種類がありますが、いずれも生産者と商業者が相互にコミュニケーションを行いながら実施します。

これに対して商業者が消費者を相手に実施するSPには、クーポンや値引き、ポイント付与、特別陳列、チラシ、POP(商品の近くに設置し、購入の後押しとなる文章を記載)、インストア動画があります。商業者が店頭で行うSPの中には、商業者が独自に企画するものもあれば、生産者のマーケティング活動への協力の一環として実施する場合もあります。図2に示したように、生産者が商業者を相手に行うSP以外は、一方向のコミュニケーションであることが特徴です。

図2 実施主体と相手で分類するSP

筆者作成

■ 価格と非価格SP

次に価格に関わるものと非価格要素が多いもので分けることができます。チラシには、セールやバーゲンのような価格情報のみではなく、キャンペーン、初売など多様な情報を載せるために、価格と非価格の両方に入れました。

SPの特徴の1つに、「短期即効性」があります。短期即効性が高いほど長い年月を要するマーケティング活動には逆効果があると言われます。確かに、クーポンや値引きのように、価格に関わるSP(monetary sales promotion)は、ブランドエクイティを下げることが多くの研究によって確認されました。しかし、サンプリングのように消費者に商品を体験してもらう非価格要素の強いSP(non-monetary sales promotion)は、ブランドエクイティを向上させる効果があることが実証されています。

この分類は、多様なSP間の異質性に注意を払う必要があることを示唆します。「短期即効性」に引っ張られすぎると長期的視点でSPを企画立案する発想ができなくなってしまいます。分類軸を改めることで、企画立案のアイデアが生まれます。例えば、流通フローの一致性を枠組みにしてタイプ分けすることができます。

■ 流通フローの一致性とSP

商品の取引や購買が行われる時に、販売者と購買者との間には3つの流通フロー(価格情報や新商品情報の流れを意味する"情報流"、商品の所有権の移転である"商流"、そして現物の移動を意味する"物流")があります。3つの流通フローが同時間帯に、同じ空間で展開されるほど一致性が高いと言えます。

クーポンやサンプリング、チラシは、プロモーション実施時には、商品や価格情報のみを先に購買者に与えます。そのために流通フローの一致性は高くないと言えます。他方で他のSPの場合は3つの流通フローが、同じ空間で、購買時点で起こるために、一致性が高くなります。

SPの特徴の中に、「到達容易性」と「測定可能性」があります。流通フローの一致性が高いことは、...

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