セールスプロモーションの企画を考えるうえで、人々の本音であるインサイトの理解は欠かせない。目先の売上を上げるためだけの値引き、特典などに頼らず、成果を生み出すことができる。インサイトを起点にした戦略の立案と施策を得意とする専門家が解説する。
セールスプロモーションとは、買い物客の欲求や小売業の販売意欲を高めるために行う販促活動全般を指します。しかし、近年では従来型の消費者向けキャンペーン(前年比70~75%)や小売業向けの施策では十分な成果が上がらなくなってきました。
これらの背景には、モノの充足や販促効果の見直しの必要が挙げられます。景品を提供する手法はキャンペーンの実施による売上の前倒しだけになり、行動の変化が継続できない仕掛けは瞬間的な話題づくりだけに留まってしまいます。そこで、日本の事業会社や小売業・サービス業が注目をしたのはセールスプロモーションへのインサイトの活用です。
インサイトとは、人々の本音や潜在的なニーズを指し、「行動を起こす際の心のホットボタン」と言えます。マーケティング活動における調査でお客さまの声をインサイトと捉える方もいますが、自社独自の事業やサービスを開発する際には、まだ表面化されていない人々の隠れた心理や想いを捉えることが大切になります。現在、調査会社や広告会社に限らずに、このインサイトを捉えるための様々な取り組みや独自の手法が用意されています。
誰のインサイトを見つけるのか
インサイトを見つけようとする時に、まずは誰のインサイトを見つけるのかが重要になります。企画書や提案書の中で「ターゲット」という文字を目にしますが、商品やブランドの訴求であれば、それを利用する人と買い物する人が一致をしているかを確認する必要があります。例えば、歯ブラシや栄養ドリンクのように利用者が夫(男性)や家族全員でも、購入者が奥さん(女性)であるなど、必ずしも利用者と買い物客が一致しないケースもあるのです(図1)。
また、その商品の購入にあたって影響を与える人や、販売チャネルなどそれぞれにあるインサイトから、誰のインサイトを掘り下げるかを決めます。ターゲットが利用者であれば「コンシューマ・インサイト」、買い物をする人であれば「ショッパー・インサイト」をテーマにします(図2)。
セールスプロモーションでは販売チャネルである小売業のインサイト(リテイルインサイト)は重要な要素になります。そして表面的な顕在化されたものではなく、潜在的なニーズを見つけることがインサイトの最大のポイントなため、そこには多くの工夫があります。
専門の調査員が対象者と1対1で生活・行動実態を深く詳しく掘り下げて聴取するデプスインタビューや、対象者の生活や行動に一緒にどっぷりと漬かりながら、その中で不満や本音を見つけ出す方法など、企業によって独自の取り組み方が見られます。
そうした時のコツは対象者になりきり、その行動や判断の際の気持ちを反芻しながら"ブレイクスルー"、つまり丁寧に掘り下げることです。これはワークショップなど複数の参加者による方法でも行います。私はこれらをメーカー企業や小売業や広告会社の人たちを含めて行います。そうすることで、オリエンテーションでは伝わってこない真の課題や、その企業や商流の中にある「解決をしなければいけない厄介な課題」を明確にします。
インサイトを見つける際に対象者の不満や不安、願望を突き詰めていく中でそれを言葉やカタチにしていきます。行動分析や消費者行動の知見はこうした作業の中で役立ちます。
どの企業においても、インサイトを見つけることが目的ではなく、その企業の「売上」や「集客」といったマーケティング活動のゴールに導くことが重要な点になります。また、調査や行動を掘り下げる中で見つけたインサイトが正しいかどうかを判断するものに、「そのインサイトは思わず頷けるかどうか?」といったものがあります。このポイントは発案者やプランナーの立場ではなく自分自身を対象者として置き換えたときに、そう実感できるかどうか。
ただし、この時に注意をしたいのはプロモーションとして展開をする際、その周囲の環境や影響を与えるものを把握することです。
商品であれば店舗や売場の様子、展開を決定するうえで関わる小売業のバイヤーやスタッフなど。インサイトを見つけたものの、店舗や売り場の考え方がメーカー企業や広告会社の提案するプロモーションの実行の壁になることは散見されます。
これらの壁を突破するためには業務を成功に導こうとする同じ視線を持ち、前述のワークショップなどで、...