販売・接客の現場で活躍する、35歳以下のキーパーソンたちに迫る本企画。これからの時代を担う彼ら・彼女らは、いまどんな思いを抱いて仕事に向き合っているのか。今回は、老舗百貨店「松屋銀座」のバイヤー・渡邊るり子氏(33歳)だ
憧れの百貨店で夢のバイヤーに 鍛えた審美眼で売上アップ
銀座の文化をけん引してきた百貨店「松屋銀座」(東京・銀座)が、渡邊るり子氏の働く現場だ。
渡邊氏は現在33歳。2008年に新卒入社し、ことしでちょうど10年めを迎える。有名百貨店の集まる中央区の隣区、江東区に実家があり、幼いころから百貨店は身近な存在だった。それが高じてか、大人になってからも買い物好きに。自然と百貨店に憧れを抱くようになっていた。
松屋には新卒で入社。面接時に決め手となったのは、「500種類におよぶ焼酎の銘柄からお客さまの好みに合ったものを提案していた」と話したこと。大学生のころ、鹿児島料理専門の居酒屋でアルバイトをしていた際の経験だ。商品への強い興味、関心は、百貨店バイヤーに不可欠の素質。面接官の歓心を買うきっかけとなり、次の選考へと進んだ。
松屋では、新入社員は必ず売り場に立つ。配属先は「婦人服売場」だった。人と話すことが好きだと言う渡邊氏は接客にも向いていたようだ。自分が薦めた商品に興味を持たれると、それだけでうれしくなった。
4年間販売に携わったが、入社5年めに大きな転機を迎える。松屋が運営する「銀座インズ」のファストファッション店舗「プチプチマルシェ」を担当することになったのだ。
「異動を聞いてびっくりして。大げさかもしれませんが、上司の前で泣いちゃったんですよ。初めての異動で、本店から離れるのがさみしかったんです。それまで若手が配属されなかった場所なので、自分に務まるかも不安でした」
「プチプチマルシェ」は社員4人が担当する店舗だ。それだけに、人事から経理まで、幅広い業務を学ぶことができた。テナントは若いブランドが中心で、同世代の店長が多く、同じ目線で話せたために不安はやわらいだという。
若年層向けのファッション部門である「プチプチマルシェ」は、トレンドが顕著に反映されるため、店舗の入れ替わりも激しい。バイヤーとしても、常に新しいブランドを探す必要があり、アシスタントバイヤーになってからはますます審美眼が鍛えられた。
「プチプチマルシェ」でアシスタントバイヤーを経験したのち、本店に戻ってバイヤーに昇格した。松屋の慣例では、経験を積んだショップでバイヤーやマネージャーに昇格する社員が多いが、異動も含めて、ある種、異例の職務歴である。
配属先はアクセサリーフロア。もともとバイヤー志望だった渡邊氏は、念願のバイヤー業務に意欲を燃やし、昨年は同売り場で前年比105%の売上高を達成した。なかでも同氏が力を注ぐ、期間限定でブランドが出品するプロモーションスペースでの売り上げは、同比115%に伸びた。
順風満帆のようだが、昨年はバイヤーと売場マネージャーを兼任し、初めてのマネージャー業務に苦戦する一幕も。バイヤーは裏方的な存在だが、マネージャーは顧客対応の責任者として表に立つ。
「最初は責任者としての自覚が足りていなかったんだと思います。万が一トラブルが起きた際には、責任者としてお客さまにお詫び申し上げるのですが、自分では精一杯謝っているつもりでも誠意が伝わらないことがあり、言葉の選び方の大切さを痛感した1年間でもありました」と渡邊氏は語る。
「以降は一言一句、一挙手一投足まで気を配り、『松屋銀座』の名に恥じない接客を心がけよう、と改めて思いました」 …