販売・接客の現場で活躍する、35歳以下のキーパーソンたちに迫る本企画。これからの時代を担う彼ら・彼女らは、いまどんな思いを抱いて仕事に向き合っているのか。今回は、隅田川沿いのカフェレストラン「シエロ イ リオ(Cielo y Rio)」の店長・吉田浩介氏(28歳)だ。
年上スタッフとの壁を壊した"体力勝負"のコミュニケーション
隅田川沿いに店を構え、「東京スカイツリー」を望むカフェレストラン「シエロ イ リオ(Cielo y Rio)」(東京・台東)が、吉田浩介氏の切り盛りする店だ。オープンテラスが特徴で、複層階で約300席。ウエディングにも対応するほか、一般営業以外に予約状況に応じてヨガ教室なども開いている。
吉田氏は現在28歳。2013年に「シエロ イ リオ」に異動してきた。
出身は青森県。中学卒業後は地元で、大工と運送業に就いていた。18歳になって上京。当時は大工をしていた叔父の下で働くも、より広い世界を見たいと、それまでまったく経験のなかった飲食業に飛び込んだ。それが、「シエロ イ リオ」とは姉妹店の「GARB Tokyo」だった。当初の勤務先は東京・丸の内。それまでとは、ガラリと環境が変わった。
「人見知りだったのですが、なんとかなるかな、と……。最初は世間のことにもうとく、お客さまとの会話に入り込めなかったのですが、『この仕事はなんだか好きかもしれない』と思えたんです」
神奈川県・江ノ島でのGARB新店舗立ち上げを経て、次に異動したのが、東京・有楽町のレストラン「Skew(スキュー)」だった。
吉田氏は「このときが、最初にぶつかった壁だったかもしれません」と振り返る。肩書は店長代理だったが、担務内容は店長そのもの。しかも、初めて経験することが多い上、自分よりも年齢が上のスタッフばかり。コミュニケーションにも不安を抱いた。
「これは体力勝負だ、と思いました」と吉田さんは語る。コミュニケーションで体力勝負とは、どういうことかを尋ねると、「話しかけられる側になろう、と考えたんです。必ず会話が発生するのは始業のとき。誰よりも早く出勤すれば、必然的に『おはようございます』と声をかけられることになります。それで最初の1カ月は、前の日がどれだけ遅くても、誰よりも早く出てました。そういう意味での"体力勝負"です」
出勤してからはキッチンの準備をしたり、掃除をしたり。自然と「ありがとう」と声をかけられるように。2カ月めも続け、3カ月めには無事、スムーズにコミュニケーションが図れるようになった。
折々の来店客のニーズを見てルールにとらわれず柔軟に
その後店長まで務めた「Skew」は、「有楽町マルイ」に出店している店だったが、現職の「シエロ イ リオ」は、複層階かつ路面店だ。ランチから一日を通した営業に、ウエディングなど大型パーティーも多く扱うため、スタッフもキッチン、ホール合わせて40人と多い。
「シエロ イ リオ」の客層はさまざま。平日は近隣の企業のランチ客の次に、幼稚園に子どもを迎えに行ったあとの母親が友人同士で訪れる。週末になると毎週のようにウエディングパーティの予約が入り、浅草や「東京スカイツリー」めぐりの観光客も来店する。
「いわゆるマーケティング発想でのターゲット設定はありません」と吉田氏は話す。
「客層をイメージすることはメニュー考案などのヒントにはなりますが、私たちは、『下町のレストラン』でありたい、という考えのほうが大きいんです。席数も300席と多いですし、間口が広く、誰もが来やすい店にしたいと考えています …