カラフル・ボードは、人間の嗜好を解析し、一人ひとりの感性を学習するパーソナルAI「SENSY」を開発する企業。近年は企業と連携し、消費者へのリコメンド(おすすめ)だけでなく、企業活動の上流へと進出している。人工知能がバリューチェーンにどのように貢献するのか。渡辺祐樹社長に話を聞いた。

カラフル・ボード代表取締役 社長 渡辺祐樹(わたなべ・ゆうき)氏
SENSY人工知能研究所代表。公認会計士。慶應義塾大学理工学部卒。フォーバル、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)を経て、2011年にカラフル・ボードを創業、現在に至る。
性年代別ではわからない感性でパーソナライズする
消費者の立場にかえってみれば、もちろん価格は、購入の決定を左右する、大きな要因のひとつです。
しかし企業にとっては、価格が重要なのは販売時だけではありません。商品企画や仕入れ、プロモーション、接客販売、そしてカスタマーサービスといったバリューチェーン(業務機能間の価値連鎖)の根幹となるものです。これらすべてのフェーズで、人工知能(AI)が人間を支えるものになると、わたしは考えています。
というのも当社では2014年のパーソナル人工知能アプリ「SENSY(センシー)」の配信スタート以降、店頭でワインや日本酒、クラフトビールなどをおすすめする接客補助のアプリ、さらには、ダイレクトメール(DM)のコンテンツをAIによってパーソナライズ(個々人の嗜好へ最適化)したり、最近では需要予測に生かせるマーチャンダイジングのためのシステムも開発したりしています。
つまり、前述のバリューチェーンに沿って、Aiの活用範囲を広げてきたわけですが、究極的に重要なのは、個々の消費者の嗜好を、企業がきちんと認識することにあると思います。価格戦略も、消費者の嗜好と決して無関係ではありません。
いまご紹介したパーソナライズDMでは、スーツ専門店チェーン「P.S.FA」などを運営する紳士服のはるやま商事で、ほぼ本格展開というところまで来ています。選別した1万2000人の利用客に送るDMの内容を、2014年以降の購買履歴をAIで分析し、最適な商品を選んで掲載しているのです。
結果、実施前と比較して来店率は2.5ポイントアップし、4.3%から6.8%となりました。購入単価も、8516円から1万2068円と41.7%増。DMに掲載するおすすめ商品の選び方が大切なところで、割引率だけで来店誘引していない分、単価増につながったのではないかと考えています。DM施策による売上高も2000万円上昇しました。
このDMでは割引率自体は変動させていません。事前配布するクーポンの場合、平等性が損なわれる点が難点で、カスタマーサポートの上でリスクが発生するということもあります。価格を変動させるのも効果的だとは考えていますが、別の手法を用いるべきだと思います。
掲載内容に話を戻すと、パーソナライズDMを続けてきて、人の嗜好は本当に多様だということを感じさせられます。商品の品目ごとでも価格への反応は異なり、スーツは高価なものを着るが、小物類は安めであったり、あるいはその逆ということもあったりするわけです。
どういう商品を選んだら購入意欲がわくのか、見た目の嗜好だけではなくて、価格に対する嗜好も汲み取る必要があります。
そして顧客にとっても最も買いやすい価格であると同時に、当然のことながら企業として利益を得られる価格帯の商品や、割引設定にすることも不可欠な要素です。
パーソナルに、粗利と利益と購入確率から売上高の期待値を割り出し、販売の数量を最大化するか、あるいは利益を最大化するか。消費者の嗜好を把握しながら、これらの点にも気を配ることが肝要です ...