サイバー攻撃など、企業のリスクが増加する近年。企業価値の棄損を防ぐための社内外への適切なリスクコミュニケーションに必要なこととは。
「消防署の方から来ました」と言って、高額な消火器を売りつける有名な訪問詐欺商法があります。「消火器の使用期限が過ぎているため危険だ」と、新しい消火器の購入を勧めてきます。この事例のキモは「消防署の方」という表現で「消防署員が業務として来た」と受け手に勘違いさせようとすること。家庭であれ、企業であれ、見知らぬ人の突然の訪問は身構えられるため、詐欺師もあの手この手で信用させようとします。
一方、自然災害などの分野では、専門家や自治体から有益な情報が住民に適切に届かないことがあります。大雨で崖崩れ(土砂水害)が発生するなど、危機レベルが「災害が起こる恐れ」程度であれば、住民に対して行われるのは避難勧告です。勧告を受けた住民は自らの判断で対応することになるものの、災害の状況や勧告内容を理解できず、職員が何度も説明を重ねることもあるようです。
突然、判断を迫られる
冒頭の消火器の詐欺訪問も、災害時の信頼できる情報伝達も、面識のない人からリスクについて説明が行われ、受け手が判断を迫られている状況です。しかし、多くの人にとって信頼できる人か否かを素早く正確に判断することは困難です。
そうした問題にアプローチするのが「リスクコミュニケーション」の考え方です。日本リスクコミュニケーション協会*1では、リスクコミュニケーションを「有事の際に、内外のステークホルダーと適切なコミュニケーションを図ること。これを迅速に進めるため、平時より準備を進めること」と定義しています...