経営トップは常に「現場主義」であるべきと主張する、コマツの野路國夫会長。グループで継承してきた価値観をあらわす「コマツウェイ」の推進に携わってきた。対外的な発信はもちろん、理念に基づく社員の行動にもつなげる広報の役割こそ重要と考える。
常に「GEMBA」を革新する
上野:2021年に創立100周年を迎えるとのことですが、今も大変素晴らしい業績で躍進されています。なかでも海外業績が伸長しています。コマツはかなり早くから海外戦略に重点を置いてこられましたね。
野路:建設業界はいち早く市場が自由化された業界ですから、私が入社した時点で既に海外展開が進んでいました。我々の先輩方は自由化の波にさらされ、海外の競合との戦いに勝ち抜くためにボルト1本まで品質で負けないようにしようと品質第一主義を貫いてきました。自由化やプラザ合意による環境の変化が海外市場で戦える会社を育てていったのでしょう。
上野:中期経営計画を拝見したのですが、「We Innovate GEMBA」という言葉がありました。あえて「現場」という日本語を使っておられますね。
野路:コマツのDNAを伝えるためです。例えば「JUHIN」は「重要品質問題」を指しますが、当社で培ってきた「TQM(Total Quality Management)」、すなわち経営トップを含む全員参加の総合的品質管理の活動まで含めたものを意味します。しかし、これをただ英訳すると「重要な品質問題」という意味だけになってしまう。そうなると総合的品質管理活動にまでつながっていかないわけです。そういうケースがたくさんあるので、いろいろな日本語を英文に混ぜて使っています。
トップに必要な「見抜く力」
上野:イノベーションといえば、約20年前に「KOMTRAX(コムトラックス)」という独自の機械稼働管理システムを、まだIoTという言葉もない時代に開発されています。これは野路会長が当時、情報システム本部長として指揮された時代と聞いています。
野路:盗難防止のために必要では、という意見が出たのがきっかけです。いいアイデアだから、数億円を投資してやってみようと判断したわけです。
どんなシステムでも最初から5年後、10年後のグランドデザインを考えられるものはありません。むしろ先の先までグランドデザインができないと社長が決裁しない、ということの方がよっぽど問題です。日本がなぜIoTやAI、情報システムの分野でここまで苦戦しているのか。現場はアイデアを持っているのに、経営トップが決断しないからですよ。決断が大事だと日本の現役社長の方々に言いたいですね。
上野:その点コマツは非常に闊達な印象を受けます …