小売業の勢力図を変えるともいわれるD2C(Direct to Consumer)。デジタル活用でいかに豊かな体験を提供できるかがポイントだ。ファンづくりからリピート購買への施策、KPI設定までを聞いた。
「販売」はゴールではない
──自己紹介と現在の取り組みをご紹介ください。
森:カスタムオーダーのビジネススーツを扱う「FABRIC TOKYO(ファブリック トウキョウ)」を2014年に立ち上げました。私たちの強みは顧客のパーソナルデータを持っていること。全身のサイズから属性、好みなどをもとに、お客さまにとって満足度の高い洋服を提供しています。一度データを登録すれば、以降は体型に合ったスーツやジャケットがオンラインで購入できます。
今はD2Cブランドと紹介いただくことが多いですが、アパレルであり、ITの会社でもあると説明しています。「誰もが自分らしいライフスタイルを自由にデザインできるオープンな社会をつくる」がビジョンです。
売ることがゴールで、その先を考えていない小売がほとんどです。DXの時代なのに、小売業界が取り残されてしまっているという危機感があります。そんな中で、「リテール・アズ・ア・サービス」などと呼ばれる領域ですが、私たちはデジタルを駆使して利用の体験をサービス化しようとしています。
「100(ハンドレッド)サポート」はその一例で、オーダースーツ購入後に体型が変わったり穴が開いたりした際のお直し・補修を月額398円で何度でも対応するサブスクリプションサービスです。今後はパーソナルスタイリングや、お手入れや保管などのサービスも追加していきたいと考えています。3Dスキャナーを使って採寸できる無人型店舗も始めています。
染谷:UCC上島珈琲は、コーヒーに関わることを全方位で手掛けています。私は、消費者向けのマーケティングのデジタルシフトと、2019年から始めたD2Cブランド「COFFEE STYLE UCC」に携わっています。
コーヒーは豆の産地や種類によって様々な風味がありますが、何を選んだらいいのか分かりにくい、敷居が高いと思っている方も多いと思います。そんな方に新しいコーヒーの選び方を提供していくことを狙いとしています。この事業はEC(オンライン)と店舗(オフライン)の双方で展開しています。コーヒーの味の感想を入力していくことで味覚診断がなされ、ユーザーの味覚に合ったコーヒーが提案されます。
横浜と吉祥寺、下北沢にある店舗「COFFEE STYLE UCC」では、チーズやチョコレートなどの食材とそれに合うコーヒーを紹介したり、タブレットを活用して適したコーヒーを提案するイベントを開催しています(現在は、感染症対策で食材の提供やイベントは休止中)。また、店に行かなくてもオンラインでもコーヒーの味覚の簡易診断ができ、ユーザーに合ったコーヒーを発見することができます。
オンライン、オフラインともにLINEの...