月刊『宣伝会議』は2024年4月に創刊70周年を迎えました。周年を記念し、いま広告・コミュニケーションビジネスを取り巻く課題を有識者、実務家の皆さんと議論する座談会を企画。1回目はネット広告の課題を取り上げます。ネット広告業界では、詐欺広告や公序良俗に反する広告などユーザー体験を損なう広告が増加を続け、広告の体験品質の悪化が看過できない事態となっています。なぜこのような課題が起き、また長年にわたり解決されていないのでしょうか。コピーライターでメディアコンサルタントの境治氏と、noteプロデューサーの徳力基彦氏が議論します。
大手メディアでも体験が悪化 増え続ける「通せんぼ広告」
―徳力さんは著名人の名前などを騙った詐欺広告について、境さんは広告のためにつくられたサイト「MFA」など、広くネット広告の体験品質の問題について最近、ご自身の懸念を発信されていました。具体的にどのような点に課題を感じていますか。
徳力:今年3月、実業家の前澤友作さんがFacebookやInstagram上での詐欺広告による被害通報窓口をX上に開設し、広告の運営元であるMeta社に対して抗議する旨の投稿が話題になりました。彼が問題提起しているのは、SNS上に著名人や企業の名前を騙った偽広告が横行しているにもかかわらず、FacebookやInstagramなどの広告プラットフォーマーが適切な対策を取っていない点です※。
例えば、前澤さんが問題視してXに投稿した詐欺広告のキャプチャ画像には、「SBI証券」のロゴがアイコンに利用されていて、広告画像には前澤さんの写真が勝手に使われていました。それにもかかわらず、広告の掲載者のアカウントは「TashaMoreno」という謎の人物の名前でした。普通はアカウントとアイコン画像の組み合わせを見れば、それが詐欺広告であることが一目瞭然です。けれども、広告の掲載者名をきちんと確認しない一部の人が、SBI証券や前澤さんによる投資教室だと誤解してクリックしてしまい、詐欺に遭ってしまうわけです。
警察庁によると、このような「SNS型投資詐欺」と呼ばれる詐欺は、2023年の1年間で分かっているだけで2271件発生し、被害額は約278億円にのぼると言われています。この問題は、ここ数年業界でもずっと問題視されていて、何度も議論されてきましたが、なぜか改善するどころか、悪化していますよね。
境:私もFacebookの詐欺広告に対しては以前から不満がありました。最近は特に、…