日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

REPORT

変わりゆく企業アカウント Twitter「中の人」対談

井村屋×伊藤九右衛門

近年、Twitter、Facebook、Instagramなど企業のSNS活用が定着している。長く継続している人気アカウントは、どのようにファンを形成してきたのか。いわゆる「中の人」と呼ばれている、2社の担当者がその裏側を明かした。

*本記事は宣伝会議主催のイベント「インターネット・マーケティングフォーラム大阪」(7月6日開催)内の講演をレポートしたものです。

(Twitter)井村屋の公式Twitterは2012年に開設。商品営業企画部 販売促進・SNS・DMチームが担当。商品の宣伝よりは、コミュニケーションアカウントしての存在感を重視している。

Twitterでモノは売れない

編集部:本日は企業でSNS運用を担当してきた「中の人」お二人に、舞台裏などのお話を聞いていきたいと思います。会場ではお二人とも素顔を出していますが、ウェブ上や記事などではお顔写真や担当者名は伏せて活動されています。

井村屋:私は井村屋の商品営業企画部 販売促進・SNS・DMチームに所属しています。菓子舗「井村屋」が1896年に三重県松阪市で創業して今年で121年、企業として1947年に設立した株式会社井村屋からは70年という節目になります。

私は2006年に中途入社して、ウェブショップの立ち上げから運用まで担当し、2012年からSNS運用をスタート。TwitterやFacebook、Instagram、YouTubeの公式アカウントを開設してきました。現在は東京の拠点に勤務しています。

伊藤久右衛門:伊藤久右衛門(いとうきゅうえもん)は1952年設立で、実店舗が京都の宇治に2店舗、京都駅前に1店舗あります。ECサイトは楽天市場やYahoo!ショッピング、Amazonなど計7つのモールを運営しています。私自身は2010年に入社し、ECサイトを運営するWEB営業部の所属になります。2012年6月にFacebookとTwitter、2015年11月にInstagramを開設し、2014年に発足したSNSチームでは私を含む3人で運用しています。

編集部:2012年ごろからSNSに本格的に取り組まれていますが、運用ルールや方針に変化はありますか。

井村屋:現在は企業アカウントが非常に多くなってきて、そのなかでも抜きん出たアカウントと抜け切れないアカウントの差が明確になってきていると感じています。私も他社の担当者と会うと、「フォロワーが増えない」「売上につながらない」といった相談を受けることが非常に多くなってきました。

運用上のルールや方針などに関して、私たちのなかではまったく変わっていません。本社が三重ということもあり「井村屋」という社名は東京では意外に知られていなかったので、SNS活用の一番の目的も「井村屋」という名前を浸透させること。スタート時から「Twitterでモノは売れないですよ」と、会社側にも明確に伝えています。ユーザーにとっての「隣の井村屋さん」といった親しみやすい存在を目指してきました。

伊藤久右衛門:企業にとって「SNSの運用が当たり前」になり、SNS単独で何かをするという時代でもなく、あくまで「方法のひとつ」に位置付いてきたと思います。私たちがアカウントを開設した当時は、「SNSに投稿すれば商品が売れる」という万能な魔法のツールかのような期待感があったと思います。

今ではその雰囲気は変わってきて、前提となる企画やアイデアがあって、それを実現する手段としてSNSを活用するという方向にシフトしているのではと考えています。

井村屋:そういう意味では、6月にタカラトミーアーツさんから発売された「あずきバー」専用のかき氷器も、当社のアカウントがきっかけのひとつでした。

もともと「ガリガリ君」(赤城乳業)専用のかき氷器が発売されているのですが、ウェブで「固いアイス」を検索すると、「あずきバー」が上位に来るそうです。私もTwitter上で、「あずきバーは固い」と頻繁に投稿していたので、SNS上の集合知がコラボによる商品開発に結び付くという流れを生み出したと感じています。

伊藤久右衛門:魅力的な企画や商品開発があってこそ、SNSの力は発揮されますよね。当社のSNSで最も反応がいいのが、毎年5~7月の季節限定メニュー「紫陽花(あじさい)パフェ」。このパフェの画像を投稿することで、多くのお客さまが実店舗に来店しています。検索すると実際に食べた方が撮影した画像がたくさん出てきて、それを見てさらに食べに行きたくなる……という流れが生まれているんです。

(Twitter)タカラトミーアーツから発売された「あずきバー」のかき氷器を告知。SNS上にある「あずきバーは固い!」というユーザーの声の集積が、商品開発のきっかけに。

(Facebook)年間通じて最も人気を集める伊藤久右衛門の季節限定メニュー「紫陽花パフェ」。このパフェ目当ての来店が増えるなど、送客効果を体感できる投稿のひとつ。

老舗がSNSに挑戦する意義

編集部:老舗である両社が積極的にSNSを活用しているのは、非常にチャレンジングなことだと思います。

井村屋:もともと社内で指令があったわけではなく、私から「SNSを始めたいです」と提案しました。おそらく上層部もまだSNSについてそこまで理解していなかったこともあり、ボトムアップで始まり権限と責任は私に委譲されています。今も誰かの指示や確認を経るわけでもなく、全責任を持って投稿しています。自由である反面、もしかすると投稿ひとつで会社の評判が下がってしまうかもしれない。そんな覚悟も常に持って、気を引き締めていますね。

目標はあくまでも「井村屋」のブランディングで、それは今も変わっていません。数値もKPI(重要業績評価指標)のベースとしては測っていますが、数値を気にしすぎると目標がズレてしまうと考えています。業種業態によって運用方法や目標は異なりますが、井村屋の場合はエンゲージメント率ではなく「エンゲージメント数」を重視しています。

伊藤久右衛門:当社は老舗のお茶屋ではあるものの、40代の社長をはじめ社員が比較的若く、新しい取り組みを始めやすい風土がありました。SNSに関しては井村屋さんとは逆で、上司から命じられて運用をスタートさせたのがきっかけです。現在はチームのリーダーである私に、SNS全般の権限があります。最初の1年ほどは上司とチーム内で実験的にスタートさせて、結果が出たことで会社として取り組むようになったという経緯があります。

編集部:以前、取材で御社のFacebookページのエンゲージメント率は平均10%超と聞き驚きました。

伊藤久右衛門:FacebookとInstagramで「反応のいい」投稿の9割は画像で決まると思っています。私たちは「伊藤久右衛門」というブランドを広げるためにSNSを始めていたので、当初は本店の外観や店内に飾られているお茶碗、宇治の景観といった雰囲気重視の画像を投稿していましたが、反応はあまりよくありませんでした。そこから試行錯誤をした結果、商品そのものを魅力的に見せる画像の反応がいいということが分かってきました。

井村屋:私たちもそこは同じですね。Facebookでいえば先行企業の事例などを参考にして、はじめは知られざる会社の裏側や社員の様子をアップしていましたが、まったく反応がありませんでした。むしろ商品のアップの画像を投稿した方が、反応がよかったんです。会社の立ち位置によって、魅力的な情報は変わってくるんだなと実感した経験でした。

(Facebook)伊藤久右衛門の公式Facebookページは2012年開設。社内のSNSチームが担当している。商品そのものを魅力的に見せる投稿にこだわる。中国語、英語でも表記。

運用の確立は1年かかる

伊藤久右衛門:私たちも基本的には反応がよかった投稿、よくなかった投稿の検証を重ねて学んでいきました。そのためにはやはり投稿の数も必要になります。今はアクティブユーザー数とリーチの関係から投稿時間を「19時」と決めていますが、Facebookを始めた当初は毎日投稿してその効果を調べていました。1年ほどでお客さまの属性を把握することができ、現在の運用方法が確立されていきました。

井村屋:私も運用方法の確立には、1年ほどかかると思います。もし時間をかけずにすぐに結果を出さなければいけないのであれば、広告を打たなければ難しいでしょうね。それとエンゲージメント率は、計算式の関係でフォロワー数が増えれば増えるほど下がりやすくなってしまうため、確認はするもののそこまで重要視はしていません。

伊藤久右衛門:井村屋さんがおっしゃったように、フォロワー数が増えるとエンゲージメント率は確かに減少しますね。私たちも、Facebookを始めた1年目はエンゲージメント率10%を目標にしていましたが、今はあくまで指標として見るようになっています。

現在、Facebookのフォロワーは約12万人となっていますが、1万人だった時期と12万人の今ではエンゲージメント率はまったく違います。現在も平均値としては高い方ではあると思いますが、以前と比べてしまうとあからさまに下がっているので、そこまで気にしないようにはなってきていますね。

井村屋:一番大事なのは、目的を明確にすることだと思います。もし商品を売るのが目的であれば、運用方法も適したフォロワー数も変わってくると思います。目的を把握することがまず大事で、そうでなければ社内で無理難題を押し付けられることにもなりかねません。

冒頭で話した通り、私たちは「井村屋」をブランディングするという目的があったため、コミュニケーションアカウントとしての運用となっています。そのために「井村屋」というワードを出すようにしていますが、商品販売はしないようにしています。

当社はメーカーのため、商品をスーパーやコンビニで買ってもらうことが一番になります。ウェブショップはあくまでもサポートと考えていて、営業は商品が市場に出るように努力するべきだと。ただ、EC限定商品は例外。私に責任があるので、購入を呼びかけるようなつぶやきをすることもあります(笑)。

伊藤久右衛門:SNSを運用していると、運用する側としては「一対多数」だと思いがちですが、突き詰めていくとSNSは、「一対一」のツールになるはずです。パソコンやスマートフォンを通してコミュニケーションを取るわけですが、画面の向こう側には自分たちと同じ「人(お客さま)」がいるのだと心得るようにしています。

画面に向かっているとどうしても機械的な対応になりがちですが、思い入れや情熱がなければ相手にも伝わるもの。例えば仕事に向き合うモチベーションがちょっと下がってしまったとき、個人のテンションがユーザーの皆さんに伝わってしまうのは会社として発信している以上、よくないですよね。そんなときは定期的につぶやいているネタを数種類ストックしておいて発信するなどの対策もしています。

必要なスキルがあるとすれば、画面の向こう側にいる相手をどれだけ想えるか、の一言に尽きると思います。相手が何を望んでいるかをしっかりと考えて運用することが一番大切になるはずです。

REPORT の記事一覧

変わりゆく企業アカウント Twitter「中の人」対談(この記事です)
デザインの力でコミュニティを形成「成功する地域プロジェクト」の条件とは

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する