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手書きの戦略論。

磯部光毅 新連載「手書きの戦略論。」複雑化する『戦略論』を整理しよう

磯部光毅

いいクリエイティブ、成果をあげたキャンペーンの裏にはシャープな「戦略」があるもの。でも最近、思うんです。「戦略」の企画書が年々分厚くなってきてないか?ってこと。そして、企画書を短くまとめられないのは、実はプランナーの力量の問題なんかではなくて(そういう場合もありますが......)、「コミュニケーション戦略」がカバーする領域そのものが広がっていて、複雑化しているからじゃないか、と。

今回からはじまるこの連載では、複雑に絡み合い、全体像がつかみにくくなっている「戦略論」を整理し、全体を俯瞰して見られるようにすることを目指します。それこそ「手書き」で書けるくらいシンプルに。ちょっと野心的な企画ですが、すべらないように頑張ります(笑)。

さて、内容に入る前に、ちょっと自己紹介を。私は磯部光毅と申します。アカウントプランナー兼コピーライターをやっています。97年に博報堂に入社、ストラテジックプランニング局を経て、制作局に異動。07年に独立。戦略畑、クリエイティブ畑両方の経験を生かして、単なる広告開発に限らず、事業開発、商品開発、情報戦略まで横断的にプランニングするのが得意です(どんな仕事をやっているかはWebサイトをご覧ください)。日々、現場で戦略を扱っている立場から、リアリティがあって、使える戦略論の整理にチャレンジします。ぜひ最後まで、よろしくお付き合いください。

戦略は、マーケティングからコミュニケーションへ。

ところで今これを読んでいるみなさんは、「戦略」という言葉を、ふだんどんな意味で使っているでしょうか?

広告の世界で「戦略」といえば、それは久しくマーケティング戦略のことを指していました。

マーケティング戦略の基本といえば、何と言っても巨星、フィリップ・コトラーの提唱したSTP(セグメンテーション・ターゲット・ポジショニング)。狙うべき市場を決めて、お客さんを決めて、お客さんのベネフィットをベースに競合との相対的な位置づけを決めること、ですよね。

例えば、S:ミニバン市場に参入にしよう、T:子育てママを狙おう、P:競合より広い室内空間が売りだから「子連れ買い物ストレスが一番少ないクルマ」と位置づけよう、なんて具合に。

でも、ここ10数年、広告業界で「戦略」という言葉を使うとき、マーケティング戦略=STPを指すことは少なくなってきています。もちろん、今でもかなり重要なパートではありますが、それはほんの一部、あるいは入り口の議論にすぎません。より重要なのは、STPのその先、そして具体的なクリエイティブ、メディアプランニング作業の手前にある「プランニング領域」なんです。

この領域、一般的には「コミュニケーション戦略」と呼ばれています。「コミュニケーション」なんて、あまりに一般的で漠然としていますよね。でも、それ以外に適当な表現がないのですから仕方がありません。

そもそも「コミュニケーション戦略」って何?

それでは、改めて「コミュニケーション戦略」とは、いったい何か考えてみましょう。

一昔前であれば「商品の魅力をお客さんに伝えるための作戦」なんて意味で使われていました。それが今では、3つの環境進化によって、役割が変わってきています。1つ目は技術とメディアの進化、2つ目は生活者の進化、3つ目はビジネスの進化です。

現在のコミュニケーション戦略を定義するなら、「生活者にあるパーセプション(認識)を持ってもらい、行動を起こしてもらうためのあらゆるコミュニケーション活動の作戦」といったところ。

と同時に、コミュニケーション戦略の目的は「たくさんの人に、高く、長く、買ってもらうこと」と定義できると思います。こちらも一昔前なら「たくさんの人に買ってもらう=量軸」ことだけを目的にしていましたが、現在では「高く=価値軸」「長く=時間軸」という、3つの概念が入っていることをお忘れなく。その意味と理由については、おいおい説明していきますね。

バズワードに溺れて、“戦略迷子”に?

いわゆるビジネス戦略領域やマーケティング戦略領域には、その全体を俯瞰できるような基本的なテキスト、教科書がありました。ところがコミュニケーション戦略の領域には、残念ながら、そういった書籍がありません。もちろん、何十年も前に書かれた「広告戦略立案のプロセス」みたいな本はありますし、ブランド論やエンゲージメント論など部分的な領域をカバーする書籍もあります。ただ、全体を統合し、現在の状況に適応した使えるものがないのですから悩ましい。

その理由は、特にこの10年、コミュニケーション戦略の拡大と進化と統合の流れがあまりにも早すぎたから。個別の新しい理論は生まれても、それらがわかりやすく体系化されるまでに至らなかったんですね。

そのために起こっているのが、バズワードの氾濫。マーケティング、コミュニケーションの領域では、毎年のように新しい横文字言葉が登場し、企画書に踊るわけですが、その意味はあいまいなことが多く、2~3年で消えてしまうなんてこともざら。その結果“戦略迷子”になっている人も多いのでは?

戦略のベースには、戦略理論がある。

そんなバズワードをかき分けて、日々、個別ブランド戦略と格闘している私たち。本当に効果を生み出す個別の戦略を立てるためには、そのベースとなる戦略理論の流れを知らなくてはなりません。ややもすると複雑で、難しく感じる「戦略」ですが、実はベースとなる理論はとてもシンプルで本質的。それさえ理解さえすれば、バズワードに惑わされることなく、やるべきことも見えてくるはず。

ちなみに、今回は第1回ということで、今後この連載を読むとトクすることを、職種別に整理しておきましょう。

●戦略立案現場のみなさん(ブランドマネージャー・担当者・プランナー)
・戦略論の体系的な知識を得ることで、本質的なプランニングができる
・説得力のあるプレゼンテーションができる

●意志決定者・決裁者のみなさん
・今、真に必要な戦略視点とは何か、俯瞰して考えられる
・流行りのワードに惑わされず、地に足のついた意思決定ができる

●クリエイターのみなさん
・効くクリエイティブをつくるためにやるべきことが整理できる
・オリエンの内容を深く理解でき、ポイントを外さなくなる
・あいまいなオリエンに対し、戦略立案者と同じ言語でディスカッションでき、やるべきことがクリアになる

7つの戦略理論さえわかれば大丈夫。

この連載では、これからコミュニケーション戦略の整理と再編集にチャレンジしていきます。そこでお伝えしたいのは、「コミュニケーション戦略のベースとなる戦略理論は7つある。そして、その基本さえわかっていれば踊らされないで済むし、プランニングへのヒントも見えてくる」ということ。

最後に、7つの戦略論を、ごく簡単にご紹介しておきます。細かいことは今後の連載で丁寧に説明していきますので、ここでは大づかみで捉えていただければ。

    1. ポジショニング論
    戦略とは、競合との相対的な違いを決めることだという考え方。いわゆるマーケティング理論と捉えてもらってOK。十字の二軸(マトリクスチャート)を描いて、自ブランドと他ブランドを相対的に位置づける、あれです。

    2. ブランド論
    戦略とは、その商品のらしさを規定し、守ることだ、という考え方。アイデンティティを決めて、そこからぶれずに伝えていくことを大切にします。

    3. アカウントプランニング論
    グローバルエージェンシーで一般的に用いられている方法論。戦略とは、ブランドとターゲットの隠れた心理的つながりを発見することで、それを広告制作に生かすプロセスを大切にする考え方です。「インサイト」という言葉は、この戦略論から生まれています。

    4. ダイレクト論
    戦略とは、ターゲットからの直接の反応(購買行動や問い合わせなど)を獲得することだ、という考え方。すぐにリアルな反応がなければ意味がないという捉え方。ダイレクトメールで発展し、ダイレクト型CMにつながり、今はネット広告の戦略に多大な影響を与えている理論です。

    5. IMC論
    戦略とは、顧客の購買プロセスのすべての接点で、伝える情報を統合的に設計することだ、という考え方。「カスタマージャーニー」「360°」「タッチポイント」などの言葉は、この理論が背景にあります。

    6. エンゲージメント論
    戦略とは、お客さんの参加や行動をいかに促すかだ、という考え方。関与が下がり、物的差別化が難しくなり、情報過多になり、財布のひもが締まっている現代では、お客さん側をその気にさせて、参加してもらったり、行動してもらわないと響かない。そうした考え方が背景にあります。

    7. WOM(クチコミ)論
    戦略とは、企業発信でなく、クチコミによって人づてに情報が広がっていく仕組みを設計することだ、という考え方。話題にしてもらう、情報波及を起こすためにはどうすればいいかを中心に考えます。

この7つの考え方は、時代の要請によって1から順に登場し、時に組み合わさり、時に反目しながら、経糸と横糸の関係となって戦略論全体を進化させてきました。今では、このすべてが重なった“7層構造のミルフィーユ”が、つまり「戦略」というわけ。

7層構造かぁ......と、ちょっと溜息が出てきましたか?でも、安心してください。本質はシンプルです。流れを追っていけば、誰でもすんなり理解できますからご心配なく。

残念ながら、もう紙幅が尽きてきました。次回からは、一つひとつの理論を、事例を交えながら説明していきたいと思います。それではまた来月、このページでお会いしましょう。

磯部光毅(いそべ・こおき)

磯部光毅事務所 アカウントプランナー/コピーライター。1972年生まれ。博報堂にてストラテジックプランニング局、制作局を経て、2007年独立。戦略とクリエイティブの境界を超える横断的なプランニングが得意。著書に『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議刊)。http://www.isobekoki.com/

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