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THE 業界研究

電力・ガスの自由化で変わるエネルギー業界の広告戦略

東京ガス×アサツー ディ・ケイ

2016年より電力小売りの自由化が始まり、さらにガスについても小売自由化の議論が進んでいる。電力・ガスの選択肢が広がるということは、個々の供給事業者には「選ばれる理由」を作るためのブランディングが必要とされるということ。大きな転換点を迎えているエネルギー業界のコミュニケーションについて、東京ガスの桑名朝子氏、アサツー ディ・ケイ(以下ADK)の橋本之克氏の2名の有識者に話を聞く。

桑名朝子氏(写真左)
東京ガス 広報部広告担当部長1994年東京ガス入社。神奈川事業本部で地域広報を経験した後、本社法務室へ異動。法律相談・訴訟対応・個人情報保護法プロジェクト等を担当。コンプライアンス部を経て、2006年に都市エネルギー事業部へ。プロの料理人に対する業務用ガス厨房の営業活動やプロモーション施策の立ち上げを行う。2013年4月、エネルギー自由化の動きを見据えた新しい広告施策の構築に携わりたいと、広報部に異動。主にテレビCMを担当し、2014年4月より現職。

橋本之克氏(写真右)
アサツー ディ・ケイ ストラテジック・プランニング本部 環境エネルギーカテゴリーチーム チームリーダー1995年日本総合研究所入所。環境エネルギー分野にてコンソーシアムの組成運営やコンサルティング業務を行う。1998年アサツー ディ・ケイ入社後、金融、不動産、環境エネルギー業界を中心として戦略プランニングに従事。顧客の「モチベーション向上」と「心理的バリア払拭」の両面で購買を促進する心理マーケティングが得意。マーケティングおよび行動経済学に関するセミナー講師、寄稿、著作も多数。

お客様から選ばれるために

─今年6月11日に、改正電気事業法が成立。2016年より電力小売りの全面自由化が始まり、エネルギー業界が大きく変わり始めます。

橋本 ▶これまでの東京ガスのコミュニケーションは「ガスを選んでもらうこと」に主軸が置かれていたと思いますが、自由化に向けて「東京ガスという会社を選んでもらう」ことが必要になっていますね。まさに、新たな課題に直面しているタイミングだと思います。

桑名 ▶これまではガス機器の具体的なメリットを訴求したり、企業広告で食のシーンを取り上げるなどして、「ガスがある暮らしの魅力」を伝えるコミュニケーションに注力してきました。一方、消費者にとって、安定的に供給されるのが当然となっているインフラ系企業は、イメージが形成しづらいという課題もあります。そこでこれまでは「ガス・パッ・チョ!」、「ガ、スマート!」などのキャッチフレーズで広告を展開し、生活者の方々の関心を集め、ガスに対する好感を醸成するようなコミュニケーションを志向してきました。今後はそれをさらに一歩進め、エネルギー企業の選択シーンで確実に「東京ガス」を選んでいただくために、どのようなメッセージをどのような表現で発信していくべきか。今、まさに検討しているところです。

─インフラ系の企業の広告は、安心・安全・信頼のイメージを重視して、無機質になりがちだと思います。その点、東京ガスは企業の人格が伝わるコミュニケーションをしていますね。

桑名 ▶もちろん安心・安全・信頼は企業として大前提となる価値なので、そこを棄損するような表現にならないよう、配慮をしています。ただ、当社は広告出稿量がそこまで多くないので、少ないチャンスの中で消費者の方に気づいてもらい、好感を持ってもらうにはどうしたらいいか。例えば、あえて少しユニークで気に掛かる表現を織り込む、感動・共感を呼ぶストーリー展開にするなど、クリエイティブで工夫をしています。それが結果として企業の表情を豊かにしてくれているのかもしれません。

橋本 ▶コミュニケーションで信頼を作るのは簡単ではないと思います。

桑名 ▶そうですね。広告コミュニケーションだけで信頼をプラスにしていくというより、企業活動全体を通じた不断の努力によって、信頼を確固たるものにしていくことが大事なのではないかと思います。

例えば先日、ガスのパイプラインの建設担当者から話を聞いたのですが、社員の私でも、安心・安全に掛ける努力には驚かされました。東京ガスは6万㎞(地球1.5周分)のパイプラインを敷設していますが、そのうち1000㎞にも及ぶ高圧パイプラインの建設現場では、不具合がないか、職人がパイプを手でくまなく触り、そして最後はレントゲン等を使って確認し、ピンホールの穴も見逃さず、安全を守っているのです。こうした地道な努力の積み重ねによる信頼感が東京ガスのひとつの強みであると自負しています。でも、その信頼をブランドとして評価していただくためのコミュニケーションは簡単ではありませんね。

橋本 ▶「安心・安全」は当たり前のことと思われてしまうので、コミュニケーションしても、流されがちです。それを守るための東京ガスさんの熱意や努力を伝えるのは難しく、企業と消費者の間にギャップが生まれてしまいますよね。こういうテーマは企業が自ら発信するだけではなく、複合的なコミュニケーションで生活者に話題にしてもらい伝播していく手法も大切だと思います。

例えば東京ガスが開催する料理教室は、大正2年に始まり、昨年100周年を迎えたと聞きました。以前から、企業が伝えたいメッセージを消費者が知りたい、あるいは伝えたいコンテンツの形にして発信する文化があったのではないでしょうか。

桑名 ▶そうですね。当社の創業は1885年、来年で130周年を迎えます。社内にある情報資産を棚卸してみると、新しいコミュニケーションのテーマが見つかりそうです。

社内にも発想の大転換を

─エネルギーは環境問題も関わるテーマで、その消費者インサイトは複雑なのではないでしょうか。

橋本 ▶環境エネルギーに対する消費者インサイトは独特なものがあります。

当社で独自調査を行ったところ、東日本大震災以降、特にエネルギー問題に対する関心は高まり、環境によい商品を選ぶべきだという意識も高まっている。一方でそれを理解しつつも、それを実行するためには自分の行動が制限されたり、通常より高いコストを支払う必要が生まれてしまう。消費者は、この両者で揺れ動いており、私たちはこのインサイトを「エコストレス」と呼んでいます。

桑名 ▶ガスを、さらに東京ガスを選んでもらうだけでなく、こうしたストレスをいかに低減できるかも大切なテーマだと思います。そこでは、これまでやってきたようなガスのある生活を描くコミュニケーションだけでなく、これからは私たちがどんな社会や暮らしを創っていきたいと思っているのか、いわゆる「マーケティング3.0」の視点に立った将来的なビジョンもお見せしていく必要があるのではないかと考えています。

─電力・ガスの自由化が始まると、マーケティング戦略も大きな転換を迫られそうです。

桑名 ▶電力小売事業については新規参入者としての攻めのコミュニケーションが必要とされますし、ガスについても「確実に東京ガスを選んでいただく」コミュニケーションに軸足を変えていくなかで、競合による環境変化を意識したこれまでにない新しい挑戦をしていくことになります。社員全員に発想の大転換が必要とされますし、インナー向けのコミュニケーションも重要になってくると考えています。

橋本 ▶東京ガスさんにとって自由化は追い風になることだと思いますし、そこからどんな新しいコミュニケーションが出てくるのか楽しみですね。

編集協力:アサツー ディ・ケイ

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