第一線のマーケター・クリエイターが明かす、キャリアアップの奥義。今回は、Suntory Beverage and Food Europe(サントリー食品ヨーロッパ)でDesign Headを務める児島薫さんにこれまでのキャリアについて伺いました。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずではなかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!
Q. 海外の大学への進学はいつ決心したのですか?
子どもの頃から写真や絵が好きだったこともあり、視覚的に情報を伝える、いわゆるビジュアルアーツを学びたいと考え、アメリカの大学に進学しました。留学を選択したのは、英語を手段として使えるようになりたいと思ったからです。
大学ではグラフィックデザインを専攻しました。当時、アメリカではiMacが発売されたことで、グラフィックデザインという仕事の裾野が大きく広がった時期でした。現地の友人もグラフィックデザイナーやイラストレーターが多く、面白そうだと思ったんです。安直かもしれませんが、デザイナーという職業があることも高校生のときには知らなかったので、「なんだか熱いぞ」とワクワクしたんですよね。それで、卒業後は、ニューヨークのクリエイティブブティックで働き始めることになりました。
Q. その後、日本へ戻り、就職したのはなぜですか?
留学したことで、日本の良さを改めて感じられて、日本に興味が湧いたんです。だから、英語力が身に付いたところで、「日本でデザインの仕事を続けたい」という気持ちが固まり、帰国を決めました。
転職活動には少し苦労しました。日本企業を中心に応募していたのですが、書類選考すら通らなかったんです。実力不足もありましたし、転職エージェントには「日本での就業経験がないと、日本企業は難しい」と言われ、外資系企業を薦められました。そんな中で良いご縁があって、フランスに本社を置くブランディングエージェンシーに入社しました。
FMCG(日用消費財)の仕事には、この会社で初めて携わりました。上司であるクリエイティブディレクターに、パッケージデザインのいろはから叩き込んでもらいました。この経験がなければ、今の私はないかもしれません。
Q. 事業会社に転職したのはどんな心境の変化が?
8年ほど勤めたのですが、この会社が突然、倒産することになったんです。ある金曜日にその告知があって、「来週の火曜日までに荷物をまとめて」と社長に言われたときには驚きました。それで大至急、転職活動をすることになりました。
ただ、実はその少し前から、「自分は今後、どんな仕事がしたいのか」を考えてはいたんです。
Q. その疑問への答えがサントリーにあった。
はい。思い悩んでいたとき、たまたま立ち寄ったコンビニで、サントリーの新商品がいくつか並んでいました。期間限定の商品でしたが、そのパッケージに思わず目を引かれてしまって。「炭酸文明」という古代エジプト文明に王族が飲んでいた発泡炭酸をモチーフにした商品や、「ラブモードジンジャー」という味の想像がつかないネーミングなど、陳列棚で異彩を放っていました。それを見ているだけですごく楽しい気持ちになったんです。「ああ、サントリーは、商品開発に対してチャレンジする姿勢があって、商品開発自体を楽しんでいる会社なんだな」という想像ができて、自分もそこに加わってみたいと思いました。
サントリーでの仕事に興味を持ったのはそこからですね。でも、倒産した当時は、サントリーではポジションがありませんでした。それで、興味を持った家電メーカーに入り、インハウスデザイナーとしての仕事の進め方を身に付けました。その企業はブランド力が強みの会社で、学ぶものはたくさんありました。
特に、私にとって大きな発見だったのは、事業会社にはいろんな人がいるということ。デザインエージェンシーとは違い、クリエイターではない人の方が圧倒的に多い。職種によって話題も文化も表現も全然違うから、視座も変わるし、視野も広がります。自分の成長につながった実感がありましたね。
その後、2015年にサントリーでデザイナーを募集すると聞いて。この機を逃すまいと思い、転職を決めました。
Q. 多くの視点を持つことを大切にしているのですね。
実は、帰国直後、ある日系企業で事務職のアルバイトをしました。当時は、海外の大学を卒業したと知ると、私に厳しく当たる人もいて。初日早々から、「ここは日本だということを十分理解した上で仕事をしてほしい」とくぎを刺されました。「アメリカにかぶれた、とんでもないわがまま娘に違いない」という先入観を持たれてしまったのだと思います。
傷付きましたが、いくら「私は良い人間です」と主張しても、相手がそう思わない限り、私はその人の中で「良い人間」にはならないことに気が付きました。私自身のキャラクターが、他者によって決まることもある。どんなことも、たとえ自分自身のことでも、時には俯瞰して見ることが大事なのだと、たった一言で教えられた気がします。
それ以来、仕事に対しても、近くからと遠くからと交互に見る癖が付きました。自分の仕事を否定されることを嫌がるクリエイターは多いですが、私は「あなたの目線で見ると確かにそうだよね」と受け入れることができる。実際、そうした意見を取り入れることが、良い結果につながることも、経験からわかっているからです。周りとコラボレーションしながら一緒に成長、成果を目指せるのも、インハウスデザイナーならではの面白さだと思います。
現在は欧州のグループ会社に出向し、クリエイティブディレクターとして奮闘しています。海外勤務については、避けたいと考えている人も少なくないと聞きます。私も日本が一番好きですが、出向の打診を受けて、迷わず、この場にやってきました。ひとつの挑戦をクリアしたら、自分のレベルが上がって新しいステージに行けると思うから。進む方向を決めるとき、「ワクワクするか」は私にとって大きな指針なんです。課題を一つひとつ乗り越えるチャレンジ自体を楽しんでいます。
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