第一線のマーケター・クリエイターが明かす、キャリアアップの奥義。今回は、ヤマップで執行役員 安全推進事業部長を務める小野寺洋さんにこれまでのキャリアについて伺いました。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずではなかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!
Q. 佐賀のご出身で、大学も地元だったと伺いました。
佐賀大学の理工学部数学科に実家から通っていました。父が教師だった影響で、大学時代には数学の教員になることも考えていて、中学・高校の教員免許を取りました。
ところが、東京で放送作家をしていた方が同じ学科にいて、彼が仕事で経験してきた話がすごく面白くて。すっかり感化され、自分ももっと広い世界でいろんな経験をしたいと思うようになりました。
実は、彼と出会う前からマスコミ業界には興味がありました。きっかけは、大学2年生の時。引退した競走馬「オグリキャップ」について書かれた新聞記事を読んで、オグリに会いたい衝動に駆られ、彼が種牡馬として第二の生活を送っていた北海道・新冠まで行きました。それも、2度も。1000字にも満たない小さな記事で人が動くのはすごいことだなと。そこで、人を動かす、それも良い方向に動かす仕事をしてみたいと思うようになりました。
Q. そしてベネッセグループに編集者として就職をしたのですね。
ベネッセグループの編集プロダクション(現在はベネッセコーポレーションに合併)に教材編集者として入社しました。競馬新聞の会社もいいなと思ったのですが、せっかく学んだ数学の知識を生かしたくて。それに、教育への興味もありました。大学受験は18歳の受験生にとって人生最大の関心事。教材をもっとわかりやすい表現に変えられれば、青春をかけて精一杯取り組んでいる受験生たちを、良い方向に導くことができるんじゃないかと思ったんです。
実はラジオ局からも内定をもらっていました。でも、私はやっぱり文字で人を動かしたかった。それだけ、あの新聞記事のインパクトが大きかったんですね。
Q. 転職を考えたきっかけを教えてください。
しばらく数学教材の編集を経験したあと、本社に出向し、営業を担当。『進研ゼミ』に加入していただくためのDMや広告をつくるのが仕事で、人を動かす表現を考えるのはとてもやりがいがありました。
例えば、DMに載せる教材の誌面のサンプル。学校で学ぶ順でいくと「二次関数」の図版を選びたくなりますが、多くの受験生がつまずくのは、「数列」の単元なんです。であれば、サンプルは数列のページにするべきですよね。こんな風に、数学の教材編集者だったからこそわかる「説得のコツ」を具体的な形にできるのが楽しかったですね。
そのうちに、もっといろんな広告をつくってみたくなりました。それで広告制作会社に転職したんです。
Q. どのような巡り合わせで異分野のヤマップへ?
広告制作会社でコピーライター・制作ディレクターの仕事をした後、化粧品メーカーで通販支援事業に携わりました。大手メーカーがダイレクトマーケティングにこぞって参入してきた時代でしたから、忙しかったですね。そこでは法人営業としてセミナー登壇をする機会も多々ありました。長時間のセミナーでも、参加者を引き付け続け、かつ、実践してもらえる内容になるよう、教育と編集と広告のノウハウを詰め込んで構成を考えていました。
その後、セミナーのご縁から、ネスレ日本の通販事業に携わることになりました。そんなある日、同僚が、「小野寺さん、山登りやるでしょ?友人が『YAMAP(ヤマップ)』という登山アプリをつくったから使ってみてよ」と言ってきたんです。さっそくインストールしましたが、当時はまだまだ粗削りで使いづらいというのが正直な感想でした。
それから6年後、ヤマップがマーケターを募集していることを偶然知りました。縁あって同僚が紹介してくれ、代表取締役CEOの春山と話したところ、すごく会話が弾んだんです。純粋に自然と人のつながりをビジネスとして追求しているのがすごいなと。まだ黒字化していなかったので、なんとか早く事業を軌道に乗せたいと思いましたね。
実は同じ時期に電力関連の会社からも誘いを受けていました。「そっちの方が、採用条件がいいのに」と、家族はあきれ顔(笑)。でも私は、人を良い方向へ動かし、世の中を変える仕事ができるヤマップを選びました。
私は今まで「商品が売れてうれしい」とは、思ったことはありません。喜びを感じるのは、商品を買った人の日々がより良い方向へ進むきっかけをつくれることです。例えば、ベネッセの『進研ゼミ』なら、受験で志望校に合格してくれるとうれしくなる。化粧品なら、購入者の「同窓会で若いねって言われたんですよ」という体験談を聞くことがうれしいんです。その好循環をつくれることが、マーケティングの仕事の醍醐味だと思います。
30年前のオグリキャップの新聞記事。もう随分黄ばんでしまいましたが、今でも大切に持っています。記事を見ればいつだって、「人を良い方向へ動かしたい」という、あのとき胸に宿った思いに立ち返ることができます。あの記事は紛れもなく、私のキャリアの原点ですね。

株式会社ヤマップ
執行役員 安全推進事業部長
小野寺洋 氏
1997年に佐賀大学理工学部数学科を卒業後、ベネッセグループの編集プロダクションに入社。『進研ゼミ』などの教材編集、販売営業に携わる。2003年、広告制作のジェリーフィッシュへ転職。化粧品通販のJIMOS、ネスレ日本、協和などでダイレクトマーケティングの経験を積んだのち、2019年にヤマップ入社。登山保険事業、PR強化などに携わる。2022年より執行役員。

株式会社マスメディアン
取締役 国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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