第一線のマーケター・クリエイターが明かす、キャリアアップの奥義。今回は、江崎グリコでデジタル推進部長を務める武子弘司さんにこれまでのキャリアについて伺いました。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずではなかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!
Q 新卒で花王に入社した理由を教えてください。
学生の頃から、営業やマーケティングの仕事に興味はありましたが、強く希望する企業や業界はありませんでした。大学で教員免許を取ったので、5年くらい一般企業で働いたあと、学校の先生か、家業を継ぐか、さまざまな道を考えていました。花王に決めたのは、エリアを担当する販売部門があったから。まずは生活者に商品が届くのに一番近いところで仕事をしたかったんです。営業の仕事は楽しかったですね。
最初は神奈川県の武蔵小杉や溝の口のエリアを担当しました。当時、再開発に向けた動きがあり、「このあたりに何かできます?」と地元の方に聞くと、「マンションの建設構想があり、大型施設ができるだろう」と教えてくれました。「これから若い人やファミリー層が移住してくる」と考えて情報を集め、アイデアを出すのはすごく面白かったですね。その後、ウォルマートが西友を買収するという噂が出た際には対策チームにも入りました。事業・デジタル・CRM・eコマース・先端技術などの業務にも携わるうちに花王の仕事の面白さにハマり、5年で辞めるのも忘れてしまいました(笑)。
Q デジタルの領域に足を踏み入れたのはいつですか?
入社から11年ほど経ち、住宅用のスプレー洗剤の商品開発・ブランド担当になりました。ある日、会社の決定で新製品の消臭剤ブランドに広告予算を費やすことになり、私の担当するハウスダスト対策商品の広告予算が削減されました。そこで、別の手段を考え、デジタル施策を強化しました。まずブランドサイトを立ち上げて、商品の特徴とハウスダスト対策を徹底的に伝えました。さらに、花粉シーズンといったシーンごとに暮らし方・住まい方を啓発するため、消費者との座談会を開き、その模様をターゲットの消費者がよく見るSNSにアップしました。そこでは消費者同士のコミュニティも形成されました。ターゲットに届く(伝わる)媒体を選定し、モノ(商品)ではなく、コト(アレルギー対策)を口コミで広げる方法が良いと考えた施策でした。
ネットの活用により、集まるデータも変化しました。分析をしっかり行いPDCAを回す面白さに気付いたのもこの頃かもしれません。「気付く」ことって重要ですね。
当時お付き合いのあった病院の先生から感謝の手紙が届くという嬉しい出来事もありました。「薬だけで解決するのではなく、商品を使ったアレルギー対策の提案を行ったところ、住まい・暮らしの改善ができた。アレルギーを持つお子さまのお母さまから『ありがとう』とお礼を頂いた」と綴られていました。
予算削減に伴い、新たな策として始めた取り組みが、「お客さま起点」の重要性、そしてデジタルで人同士がつながる可能性に気付く大きな経験になりました。
Q 日用品の会社を出て転職した理由は?
その頃、先端技術戦略室で無人接客ツール・デジタルシェルフ・アプリの開発などに携わっていました。花王でDXに取り組み続けたい気持ちもありましたが、デジタルを活用してもっと生活者の暮らし・健康、特に「食×デジタル」によって直接貢献できる会社で新たなチャレンジをしたいと思い始めました。
そんなとき、江崎グリコがDX推進を担う人材を探していると知りました。「『おいしさと健康』を掲げていながら、お客さまの持つグリコのイメージは菓子メーカーのまま。デジタルを活用して、健康ソリューションや未病分野に取り組みたい」と聞き、徹底した「お客さま起点」の姿勢に共感して入社を決めました。私が入社時に約束したのは、既存のファンサイトを「健康」をコンセプトに刷新すること。2020年に実現し、ファンサイト「with Glico(ウィズグリコ)」はお客さまとの共創により順調に運営されています。
2022年12月に各部門に散在していたデジタル関連組織を束ねた「デジタル推進部」が発足しました。お客さま起点のデジタル推進を徹底し、お客さま・社会に貢献する部門になるよう努めています。
Q これからどんなことに挑戦していきますか?
肌に合えば継続的に使ってもらえる化粧品と異なり、菓子や食品は同じ商品を毎日食べ続けることは考えにくいですよね。日用品よりロイヤルユーザー化が難しくとも、江崎グリコの商品を選んでもらえる関係性を築きたい。おいしさだけでなく、心身の健康に期待できる効果をデジタルで可視化して、お客さまとつながり続けていたいですね。当社のパーパス「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現につながるDXが必要だと思うのです。
デジタル活用は必然的な手段ですが、目的化してはいけません。どうすればお客さまを笑顔にできるか、周りの人が喜んでくれるか。その実現こそが目的であり、「すこやかな毎日、ゆたかな人生」を真剣に考える社員のマインドこそが実は一番大切なことかもしれません。
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