月刊『宣伝会議』は2024年4月に創刊70周年を迎えました。周年を記念し、いま広告・コミュニケーションビジネスを取り巻く課題を有識者、実務家の皆さんと議論する座談会を企画。2回目は昨今、日本国内でも問題を引き起こす「フェイクニュース」をテーマに、法政大学教授でジャーナリストの藤代裕之氏と、スマートニュースの藤村厚夫氏が議論します。それぞれの立場でフェイクニュースに対する課題意識を持つお二人。現状の問題点と、今後、メディアや広告会社、広告主はどのように対応していくべきかを聞きました。
詐欺広告や災害時のデマが急増 国内での対応が急務に
―「広告」の話の前に、昨今の「フェイクニュース」を取り巻く現状をどのようにご覧になっているか伺えますか。
藤村:私はコンテンツメディアに関わる仕事をしながら、現在ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)という、ファクトチェックを行う人々や組織を支援する団体でも活動しています。そして、この「ファクトチェック」の考え方について語る際には、いわゆる「フェイクニュース」をどう定義するかが必要になります。
フェイクニュースに関わる問題とは、「偽ニュース(ディスインフォメーション)」を意図的に発信する人々に対してどう対応すべきかという観点だけではありません。悪意のない一般市民が“うっかり”誤った情報(ミスインフォメーション)を拡散してしまい企業や社会に対して影響を与えてしまう場合に、どう対応するべきかという観点も求められます。
こうした問題の広がりを考えると、対策も多岐にわたります。特に敵対する国に対して情報を操作して混乱を引き起こす「影響力工作」のような国家レベルの問題にまで高度化していくなかで、あるひとつの考え方や仕組みだけで対策はできない、と考えています。
また『宣伝会議』の読者が関わる広告やメディアの領域においては、メディアが怪しい情報の流布を許してしまうと読者が離れて、ビジネスそのものが劣化していくというテーマもあります。
私が考えているのは、質の低い、あるいは誤った情報の流通を抑止する仕組みや人々が、社会のいたるところに存在している状態をつくり出さなければならないということ。
例えば、その対策をグローバルのプラットフォーム企業に任せきりという状態は、それだけでは不十分であるという現状がすでに目の前にあります。では一方で法制度を整備すればよいかといえば、情報統制のようになり「そんなことしていいの?」という問題も出てきます。
―藤村さんが所属されている「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」であったり、広告業界であれば「JARO」等、それぞれのコンテンツに合わせた仕組みを分散させていこうというイメージでしょうか。
藤村:そうですね。素朴な言い方をすれば、「皆それぞれの立場で責任を持ちましょうよ」という提案です。
例えば、SNSなどプラットフォーム上の不適切なコンテンツをチェックする役割を担うコンテンツモデレーターは、劣悪な労働環境で、有害なコンテンツを見続けることでメンタル面でも負荷が高い。…