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宣伝会議賞

最終審査員15名が振り返る第60回「宣伝会議賞」

3月10日、贈賞式の直前に行われた最終審査会では、約一時間半に渡って投票と議論が重ねられました。二次審査から四次審査、そして最終審査まで作品を見つめた15人に講評を聞きました。

    審査員長
    トマト
    仲畑貴志

    ネットを通じての、価値観の流通が盛んになったからだとニランでいるが、それが審査員にも影響し、票のばらつきの幅が広くなった。結果、嘗てなら、「この表現が受賞するだろう」との予想がほぼ当たったものだが、今では投票のたびに受賞作が替わったりする。価値観の多様というのは、きっと健康的なことだろうと思うが、広告表現の経済性からすると、微妙なことである。

    コンペに参加する方には、審査員の傾向と対策が読みにくくなっているわけで、ターゲットを定めにくい。こういう時は、あまり術策を弄さないで、自分自身の価値観に従って、素直に自己ベストの表現を極めることをおすすめする。それで、その結果がかんばしくなければ、自分自身を磨くしかないわけである。自らの内に無いものは、残念ながら、いくら絞っても表出してこないからである。

    一倉広告制作所
    一倉宏

    生活インフラを支える地道な企業の広告。こういうのがいちばんの難題に違いない。それをシンプルに鋭く解いてみせたのがグランプリ作品の手柄だった。確かにそういえば、という話法の発見があった。眞木準賞の作品は、数字を読み替えたウイット、スマートさが評価されたと思う。

    それはよしとしながらも、この賞が技法的、外形的な着目に偏らないようにと願う。(TCCのリレーコラムに「眞木準さんはシティポップ」を寄稿したので参照ください)たとえば、選外の「歯の成人式は6歳です。」や「幸せを、多数決にしない。」も候補となった。そういう視点もあっていいと思う。全体として印象的だったのは、多様な力作があって決選はいつも紙一重だったこと。「おめでとう」と「惜しくも」の差は大きいが、作品としての差はそれほど大きくはない。

    Tang
    尾形真理子

    純粋なコピー1本で勝負をするというのは、この時代において稀有な仕事かも知れません。ただ強いコピーがあれば、人の心をこれだけ大きく動かせるという証明を宣伝会議賞は担っているような気もします。グランプリの三浦工業のコピーは、ユーザーにとっては耳が痛いアプローチであるにも関わらず、不思議と嫌な気持ちにはさせないのがお見事。知性ってそういうことなんですね。日本交通安全教育普及協会の「ノーヘルだと、命がスースーする。」も、体感を操る高度なコピーワークで驚きがありました。

    ChatGPTのパフォーマンスから逸脱する、人間の思考の楽しさを改めて実感しました。やさしい麦茶の「今日、やさしかったの麦茶だけ。」も、トホホな共感なんだけど麦茶の温かみが伝わる素晴らしいコピーだと思いました。企業の方が選ぶコピーと審査員が選ぶコピー、評価基準の差がどこにあるのか、検証してみるのもおもしろいし、現業にものすごく役立つ気がします。

    株式会社国井美果
    国井美果

    グランプリの「なんでお湯出ると思うんだよ」は、誰かが支えてくれてこその日常を忘れがちな心にビンタを見舞うような、痛快な気づきの言葉でした。個人的には、眞木準賞の選定も大きなミッション。眞木準賞は応募者がそれに向けて応募できるものではなく、100%審査員次第です。駄洒落っぽい表層的な「っぽさ」は決して眞木さんのコピーの本質ではないと誰もが知りつつ、だからこそなかなか選定が難しい。昨年の「該当なし」を経て、今年は「これ」というモデルが生まれるといいなと密かに思っていました。

    そんな中で最後まで争った「老い、待て。」がまた駄洒落っぽいんだけど⋯とても良かった。けれども「60がGOに見える」もとても良く、僅差で受賞となりました。よい議論ができたと思います。あと、キッズドルツの「永久歯なんて妄想だ」も、パンチがあって好きでした。素晴らしい今年を、きっと超えてくる来年の宣伝会議賞も楽しみにしてます。

    児島令子事務所
    児島令子

    グランプリの守本さんは、今回が初の応募で、ちゃんとコピーを考えたのも初めてだと授賞式で言っていた。これはビギナーズラックなのだろうか?いや、このコピーの良さはオリジナルな視点とオリジナルなアウトプットの合体。プロでも、ある種の志がないと書けない。コピー的なるものにとらわれずコピーを自由にしていこうという志。守本さんは自然にそれをもっていた。納得の一等賞だ。

    もうひとつ私がグランプリ候補だなと推していた「今日、やさしかったの麦茶だけ。」は、何も受賞しなかった。うーん残念。機能をこんなふうに感情で語るなんて、光ってる。このひと言で「やさ麦」のある愛おしい日常がたちあがる。勝手に児島令子賞ってことにしておきますね。「老い、待て。」は、単なる駄洒落を超えて、エイジングへの人の思いをシンプルに言い得ていてよかったです。

    電通グループ
    澤本嘉光

    最終選考に残っていたものはコピーについてはどれもレベルが高いものでした。どうしてもそちらに行きがちな既存のコピーっぽいものとは違ったチャレンジしている姿勢のものが最終的に残っていたのは嬉しかったです。当てに行く、という姿勢も重要だと思いますが、それをしつつもあえて他の道を選んで挑戦する姿勢も見れると宣伝会議賞がさらに登竜門や才能の発揮場所として意味のあるものになっていくと思います。

    動画については最終的に残っている数が少ない印象がありましたが途中選考段階でどこかが1箇所でもよければ通過したようなものも多数あった気がしていて、かなり惜しい状態かなと。むしろチャンスと考えて動画の企画の応募も増えるといいなと思いました。

あと60%

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