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IMCからIMXへ―「Coke ON」はコカ・コーラのマーケティングをどう変える?

日本コカ·コーラが挑むコンシューマーサービス開発の課題と展望

宇川有人氏(日本コカ·コーラ)

従来は卸売業者や小売店を介して顧客と接点を持っていたメーカーも、顧客と直接つながり、魅力的なブランド体験を提供することが市場で生き残るための重要な鍵となっています。本連載では日本コカ·コーラの公式アプリ「Coke ON(コークオン)」の事例をもとに、顧客とダイレクトにつながる新たなマーケティングの形を考えます。

会員サービスとは「穴の開いたお風呂」

最終回では、「Coke ON」の事例を一般化して、サービス開発や運用で活用している考え方を紹介します。業種を超えて、消費者サービスに従事する方の参考になれば幸いです。

アプリなどの会員サービスは、売り切り型の「フロー型ビジネス」に対して、「ストック型ビジネス」とも言われます。商品やサービスを一度購入して終わりではなく、継続的に使い続けるユーザーを蓄積していくことで、安定的な収益につながることが特徴です。消費者がサービスを認知してから購入するまでのフローを「パーチェスファネル」で表すことが多いですが、会員サービスではこのフローの先につながるストックが重要です。

私はこのファネルの先のストックの部分を「穴の開いたお風呂」に例えています。穴の開いたお風呂をお湯で満たす(サービスを成長させる)ためには、「お湯を加える(集客する)」だけでなく、「穴の補修(サービス改善)」と「追い炊き(利用促進)」をバランスよく実施し続けなければなりません。

サービスが不十分で穴が多い(継続率が低い)状態なら、どれだけ加水(集客)してもお湯がたまらない(アクティブユーザーが増えない)し、水を加えるならば冷水よりもお湯を注ぐ方が良い(広告のターゲティング)でしょう。そして、一度浴槽に入ったお湯も何もしなければ冷めてこぼれ落ちて(離反して)しまいます【図1】

図1 会員サービスにおける「ストック型ビジネス」の考え方

プロダクトマネジャーに求められるのは、各所の流量計、水量計と温度計を監視し、限られたリソースを、「補修」「追い炊き」「加水」にバランスよく配分することで、お風呂の中のお湯の熱量を最大化することです。「Coke ON」で運用しているマーケティングオートメーションプログラムは、「自動補修・保温機能」のような発想でつくっています。

ストック型ビジネスに必要な広告投資orサービス投資の判断

ストック型ビジネスでは「流出量」のモニタリングが重要です。どんなにユーザーが流入しても、穴からの流出量の方が多ければ、持続可能ではありません。フロー型ビジネスでは、広告によって一時的な流量を増やす選択肢もあるかもしれませんが、ストック型ビジネスでは、一度マイナスの経験をしたお客さまに戻ってきてもらうのは、通常以上に難しくなるため避けた方が良いでしょう。

「広告でユーザーが増えれば好転するだろう」という楽観的な予想は、ほぼ当たりません。サービス品質や提供価値...

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