ジェイアール東日本企画は2022年7月より、JR東日本グループの媒体事業を通して培ってきたノウハウを、グループ外の企業にも提供することを目的に、「デジタルサイネージ事業局」を設立。同社が考えるデジタルサイネージメディアを起点とした構想について話を聞いた。
デジタルサイネージ施策を企画~運用まで通貫でサポート
東日本旅客鉄道(JR東日本)の第1号戦略子会社として1988年に設立されたジェイアール東日本企画(jeki)。同社では、JR東日本グループはもちろん、グループ外の一般広告主企業のコミュニケーションをサポートする広告事業やコンテンツ事業などにより、総合広告会社としての地位を確立してきた。
またjekiには広告会社としての側面だけでなく、JR東日本グループのメディアを扱う媒体事業者として、駅や電車内のデジタルサイネージを20年以上にわたり運用・販売してきた実績もある。同社は、この媒体事業者として培ってきたノウハウについて社外から多くの問い合わせを受けたことから、2022年7月に「デジタルサイネージ事業局」を新設。新たにOOHメディアを開発・運用したいロケーションオーナーをサポートする事業を開始。
同年、11月には同局のメディアレップ事業第一号として、ABCクッキングスタジオの教室内に設置したデジタルサイネージの配信枠の一部を広告媒体として販売する「ABCクッキングスタジオビジョン」を発表している。
また3月には同社におけるデジタルサイネージ事業のWebサイトを新たに公開したほか、事業の本格化に向けた組織改編も進めている。
デジタルサイネージ事業局で開発業務部長を務める五十嵐稔氏は、「当社には20年以上、OOHメディアを企画・開発、さらに運用してきた知見があります。OOHは広告メディアとしての収益化を図るための営業活動だけでなく、設置した後には保守や運用などの業務が発生し、そこに課題を抱える企業は多くあります。事業局立ち上げ以前から、そうした課題を抱えるグループ外からの相談事例が多く、今回の事業化にいたりました」と、デジタルサイネージ事業局設立の経緯を話す。
同局のサービス領域はハード領域からソフト領域まで広範囲にわたり、「企画・設置」「配信運用・保守」「広告販売」と一気通貫で支援を行っている【図】。運用面では同社が提供するサイネージ専用の通信回線「デサモ」やグループの配信運用会社「JR東日本アイステイションズ」の活用も可能。JR東日本グループである同社ならではの安心・安全な運用体制を構築している。メディアの新規開発においても様々なメーカーと協同し、メディアの目的や予算にあわせて最適な提案をパッケージ化して行っているという。
またメディアの新規開発や新規出稿だけではなく、すでにデジタルサイネージを活用しているが、運用のためのリソースが足りず、同じ映像を流し続けてしまっているという課題を持つ企業も多いという。そのような企業も、広告・コンテンツ問わずサポートしていく計画だ。
ロケーションオーナーと広告主 両者の課題を解決する
また同局では、サイネージメディアのオーナーに対するサポートだけでなく、この事業の中で広告枠の売り手と買い手をマッチングさせる新しい仕組みも提供していく考えだ。
「『街で面白いデジタルサイネージを見つけたが、どこに相談して出稿すればよいのか分からなかった』との声を聞くこともよくあります。これはロケーションオーナーにとっては販売のロスになりますし、広告主にとっても生活者接点を構築する機会の損失につながります。『あらゆるOOHについて当社に相談していただければ購入できる』という状態にする構想もあります」と五十嵐氏。
同社ではOOHメディアのマーケットプレイスを構築し、プログラマティックな取引ができるプラットフォーム実現への取り組みも進めているという。
OOHの効果を適切に可視化する プラットフォームの構築を目指す
また、OOH広告の効果の指標の確立にも貢献していきたいとの思いもあると言う。同社ではこれまでにもデジタルサイネージから取得するデータを活用することでOOH広告の効果の可視化に取り組んできた。
「技術の進化によりセンサー等をサイネージに設置することにより、データによる効果の可視化ができるようになってきました。しかし、現時点では業界内で統一した指標が存在しないため、OOHメディア内での比較や、さらには他のメディアとの比較が難しい状況にあります。OOHメディアをより統合的なマーケティングプランに組み込みやすく、使いやすくしていくためには、統一指標を構築していくことが大切で、私たちの使命だと考えています」とメディアソリューション推進センターの四條浩紀氏は話す。
また、こうした取り組みが個々のOOHが持つ価値の発掘にもつながっていくとの考えを示す四條氏。
「OOHにおけるデータの取得というと、掲出場所の通行人数をイメージされる方が多いかもしれませんが、接触人数だけが効果を示す指標ではありません。例えば、あるアーティストのコンサートの来場者に向け、その出演者が起用された広告を掲出したらどうでしょう。単なるリーチの規模だけではない広告価値が生まれるはずです」(四條氏)。
他社のOOHメディア開発を支援し、そのなかでメディアのネットワークを構築していく。jekiの構想からは、OOHメディアの進化の形が見えてきそうだ。
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