デジタル技術を駆使したDOOHを含めて伸長する中、約13年ぶりにOOH業界の指針となるグローバルガイドラインが改定され、OOH先進国は新たな指標のもと課題解決に邁進している。日本語版のガイドライン作成にも尽力したHivestack Japan社長の神内一郎氏にOOHの現在地と展望を聞いた。
現代のOOH業界に則した 国際的なガイドラインの改定
新型コロナウイルスの影響により、人流が変化し、デジタル化が加速した。それに伴い、広告業界の市場規模は拡大しており、その成長をけん引しているのがデジタル広告とOOHだ。
OOHはグローバル市場で2021年に550億ドルを記録し、2025年には730億ドルに成長することが見込まれる。中でも注目すべきがDOOHだ。このDOOH市場全体の30%ほどがプラットフォームを用いた自動取引を指す「プログラマティックDOOH」が活用されると予想され、OOHを構成するあらゆる領域で成長が見込まれている。Hivestack Japan社長の神内一郎氏はOOH市場の成長には、新規プレーヤーの参入も関係していると解説する。
「従来はOOH事業に特化したデジタルプレイヤーが市場成長を担ってきましたが、近年はオンライン広告市場のトッププレイヤーたちが培ってきたノウハウを生かし、OOH市場でも存在感を高めています」(神内氏)。
この流れを表す事例が、2022年8月に正式にアナウンスされたGoogle社のマーケティングプラットフォーム「ディスプレイ&ビデオ360」のDOOH広告取扱いへの拡張だ。グローバル市場では、オンライン広告とOOHが共通のプラットフォーム上でプランニングから効果測定まで一気通貫して行える時代を迎えている。
OOH市場の発展可能性は、ソフト面のアップデートにも表れている。世界で唯一のグローバルOOH業界団体World Out Of Home Organization(WOO)が、2022年5月にグローバルガイドライン「GLOBAL OOH AUDIENCE MEASUREMENT GUIDELINES」を発表。同ガイドラインは、WOOに加盟する世界各国のOOH指標提供団体や主要OOH媒体社、広告会社から構成されるメジャメント委員会が中心となり、2009年に発表したガイドライン「GLOBAL GUIDELINES ON OUT-OF-HOME AUDIENCE MEASUREMENT」を改定したものだ。
改定の目的は3つに大別されると神内氏は話す。
「ひとつ目はOOH業界におけるデジタル化への対応です。アナログOOHとDOOHでは視認性が異なる点を考慮に入れること。また、アナログOOHと異なり、DOOHではスポット単位で計測することが求められています。2つ目は、最新データの活用です。コロナ禍などの影響で、人流が大きく変化する中、過去の累積データに依存するだけではなく、スマートフォンのデータなどを活用し、最新の状況を反映させた補正が必要とされています。そして3つ目は、クロスメディア計測への対応。従来、各メディアの到達指標は各メディアに閉じた指標でしたが、近年はメディアを横断し、他のメディアとも比較可能な共通指標を求める声が広告主を中心に高まっています。世界的な機運の高まりから、本改定ではすべてのメディアを同じ基準(アテンション=視認)で計測する手法を推奨しています」。
改定の根幹にあるのは「国際的なOOH言語の統一」だ。広告主・広告会社・メディアの3者が一体となり、汎用性と網羅性のある計測モデルへと昇華することが目指されている。
世界標準の指標づくりに向けた 国内OOH業界の取り組み
日本でもOOH業界に新たな動きが生まれている。2022年10月、デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)は、「GLOBAL OOH AUDIENCE MEASUREMENT GUIDELINES」の日本語版を発行した。既出の国際ガイドラインの改定には、日本からはDSCとLIVEBOARDが参画しており、Hivestack Japan社長であり、DSC メジャメントワーキンググループ幹事やWOOメジャメント委員を務める神内氏が監訳を担った。
「日本語版発行の大きな目的は、日本でのメディア取引標準指標の導入を加速させることにありました。世界各国ではメディア取引の基準となる指標『メディア・カレンシー』がガイドラインをベースに構築されています。到達指標の粒度には4つのレベルが定義されており、OOHが見えているか否かにかかわらずOOH媒体近くの人数を測定する『①Circulation』、OOHの視認エリア内にいる人数を測定する『②OTS(Opportunity To See)』、OOHの視認エリアにいて、かつスクリーンの方向を向いている人数を計測する『③OTC(Opportunity To Contact)』、さらに、OTCの中でも広告を視認していると推測できる人数を測定する『④VAC(Visibility Adjusted Contact)』の順で測定の粒度が高くなります【図】。国際標準基準は『④VAC』ですが、日本では標準的な指標は制定されておらず、またアンケート調査による広告認知などの効果指標が到達指標として誤認されているケースもあります」と神内氏は指摘する。
ガイドラインの日本語版を発行して以降、国内の様々なOOH関連団体がメジャメントの重要性を理解し始め、効果が表れているという。
「指標の一本化に向けて結束力が高まっていることを実感しています。2023年は広告主・広告会社・メディアが一体となり取り組む『標準指標構築元年』になるのではないでしょうか」と神内氏。
すべてのメディアを網羅的に計測できる共通指標が構築されれば、OOHのクロスメディアプランニングへの導入も容易になる。
加えて、プラットフォームを活用したプログラマティック取引が増加しており、日本と海外諸国との直接取引が生まれるなど、グローバルな運用が加速している。インテルが行った「“See It All”キャンペーン」では、IT事業者、製造業、小売、ヘルスケアの4業種の意思決定者をターゲットと定義。個人情報を特定しないモバイルデータを活用することで、ITイベント会場やターゲット企業の本社・支社で収集されたモバイルIDを元にターゲット定義を行った。
ターゲットが集中する場所や時間帯にOOHを配信した結果、OOH接触者は非接触者と比較して、全体平均で8.8ポイントWebサイト訪問値が上回ったという。
この事例は日本国内のキャンペーンだが依頼主はインテルの米国本社。プログラマティック取引が浸透すると、こうした海外から日本への直接取引においてもOOHの活用が進んでいく。こうした事例が日本企業発でも見られるよう、引き続き整備を行っていくと神内氏は語った。

Hivestack Japan
社長
神内一郎氏

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