甲斐博一氏がリーダーのチームでは「CMO X BUSINESS」をテーマに議論を重ねてきた。日本の企業においてマーケティングと経営はどこまで一体化が進んでいるのか?という問いに対して、日本企業とグローバル企業、BtoCとBtoBのマーケティングを経験した3名が議論する。
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数字だけでは掴めない 分解と観察で顧客を見抜く
甲斐:私たちのチームが最初に抱いた問いは、「日本企業においてマーケティングは経営の一部として機能しているだろうか?」、「日本企業はマーケティングの本質を理解し、経営に生かしきれているだろうか?」、「これらの命題がNoの場合、その要因は一体どこにあるのだろうか?」ということでした。その後、議論を重ねていく中で「時代の変化」に着目し、今回の「マーケティングは経営にどう影響を与えるべきか?」というテーマにたどり着きます。
現代は「VUCAの時代」と言われていて、本当に複雑かつ不安定な時代で、予測が立てにくくなっています。昔のように、過去の数字から未来予測をして意思決定をすることが困難で、予測を立てても当たるとは限りません。人口減少と高齢化による生活スタイルの変化。インターネットを中心としたデジタルテクノロジーの進展。急激に進んだグローバル化。さらには、それに加えて登場したのが「サステナビリティ」という、新たな課題です。
絶えず変化を求められる中で、過去の強すぎる成功体験が足かせとなって、対応力不足に陥った日本という国において、経営とマーケティングはどう付き合っていくべきなのでしょうか。
松本:経営の役割に立ち返ると、「低収益・低成長の旧来事業へのリソース投入を避けること」と「主力事業を安定させること」の2つがポイントになります。その上で、変化への対応という面で言えば、「新規の成長事業をしっかりつくっていくこと」が大事になるでしょう。
成熟事業で稼いだキャッシュを成長事業に回していくことが経営における重要なポイントだと考えています。また、新規の成長事業をつくることは、新しい顧客価値を生み出すこととも言えます。変化する顧客の姿を見抜いて、それに合う価値を素早く提供していくこと。これが重要だなと感じました。
髙口:人口増加による需要増を享受していた過去と違い、現代では人が増えない中で価値観が多様化して、一人ひとりの志向が細かく枝分かれしていったと思います。この変化は、数字だけを追いかけていては掴めません。例えば、『サザエさん』に登場する波平さんの年齢設定は54歳だそうです。一方、現代の54歳はというと、例えば江口洋介さんのように年齢を感じさせなかったりもします。