今年から「宣伝会議賞」の審査員に加わったTBWA\HAKUHODOのシニアクリエイティブディレクター 高橋律仁氏と、電通のコピーライター 三島邦彦氏。新・審査員の2人が、名作コピーのどこが優れているのかを徹底解説。応募者必見の内容をレポートします。
たった一文字の有無が読む人の感情を激変させる
高橋:それでは、「好きなコピー 影響を受けたコピー」についてそれぞれ発表したいと思います。まずは、三島さんからお願いします。
三島:はい。僕は最初にコピーを意識するようになった言葉として、トヨタ自動車のこちらを紹介します。
「変われるって、ドキドキ」
このコピーが偉大なのは「〇〇って、〇〇」という文法を、世に広く定着させたこと。オリジナルの文法を発明することの凄さを感じます。「変わるって、ドキドキ」ではなく、そこにたった一文字「れ」が加わることで、人間が持つ可能性や未来への時間軸など、いろんなものが変わることに改めて驚かされます。自分も新たな文法をつくれたらな、という憧れを感じるコピーですね。
高橋:21世紀に差し掛かる当時の世の中の気分を、すごく味方にしたコピーですよね。「れ」の一文字にしても、僕らは「短くすること至上主義」みたいなところがあるから、ともすると削ってしまいかねない。でも、そのたった一文字こそが変化への願望や、そこに至る鬱屈した感情までも表現していたから、人々の共感を呼ぶことにつながったんでしょうね。僕が選んだのは、朝日新聞社のコピー。
「このままじゃ、私、可愛いだけだ。」
新聞のコピーを考えるときって、9割5分の人間が「新聞ってこんなに役に立ちますよ」とか「読まないとこうなりますよ」のようなものが多い。そこを、まさに新聞を読もうと考えている人のリアルな心境にしたことで、視点の変化があります。そして、主体を女子高生らしき人物に設定している。それをコピーにした結果がこうなるなんて、「一体、なんつー言い方をするんだ?」と驚きました(笑)。
ここには、この年代特有の「浮かれた感じ」や、ワーキャーみんなで話している「世界観のすべて」が含まれています。相当高度な...