世界市場において巨大プラットフォーム事業者が躍進し、欧米では自由な市場競争を阻まないよう、プラットフォーム事業者に対する規制が始まっています。日本においても同様で、2020年5月に「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が成立し、今年8月1日からは本法に「デジタル広告市場」が加わることとなりました。経済産業省 商務情報政策局 デジタル取引環境整備室長の日置純子氏の解説を交えながら、広告界に与える影響を考えます。
2021年から施行された「透明化法」とは何か?
2020年5月27日、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下、透明化法)」が成立し、同年6月3日に公布、翌年2月1日から施行されました。
本法ではデジタルプラットフォームのうち、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いプラットフォームを提供する事業者が「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定され、規律の対象になります。
2021年4月には大規模な物販総合オンラインモール、アプリストアを対象に運用が開始に。ここで規制対象となったのは物販総合オンラインモールがアマゾンジャパン、楽天グループ、ヤフー、アプリストアがApple Inc.及びiTunes、Google LLCの合計5社です(【図1】参照)。
その後、同年4月に発表されたデジタル市場競争会議「デジタル広告市場の競争評価最終報告」を踏まえ、経済産業省にてデジタル広告を規制対象に追加する方向で作業が進められてきました。
この「透明化法」に、デジタル広告が規制対象として追加されることが、2022年7月5日に閣議決定され、8月1日から施行に。8月1日から1カ月以内に、自分たちがデジタル広告市場における「特定デジタルプラットフォーム事業者」に該当する事業者は経済産業省に届け出る必要があります(届け出期限は9月1日)。
国の関与・規制は必要最小限 事業者の自主的取組が基本
「デジタル広告市場」の対象追加について見ていく前に、まずは「透明化法」の位置づけや役割を見ていきましょう。
「透明化法」は、デジタルプラットフォーム提供者が透明性及び公正性の向上のための取組を自主的かつ積極的に行うことを基本理念としています。国の関与や規制は必要最小限のものとすることと規定されているので、規制の大枠は法律で定めつつ、詳細は事業者の自主的な取組に委ねる「共同規制」という規制手法が採用されているのです。
ここからは経済産業省の日置純子室長による解説も交えていきます。
「透明化法」を理解する!経済産業省 日置室長への質問 ①
Q 「透明化法」には罰則はないの?
A 「透明化法」にも罰則はありますが、イノベーションと規律のバランスを重視した仕組みとなっています。それが「共同規制」です。
「共同規制」とは、規制の大枠を法律で定めつつ、詳細は事業者の自主的取組に委ねるという手法です。自由で公正な競争を促し、イノベーションを阻まないこと。日進月歩の勢いで進化するテクノロジーに柔軟に対応しながら改善を図っていくことを目的としていて、こうした方法は「アジャイル・ガバナンス」という考え方にも通じるものです。
例えば、ドローンのような新しい技術が出てきた際に、最初から一律の規制ありきだと、今後発生しうるイノベーションの制約になってしまうおそれがあります。とはいえ、安全の確保なくして、商業利用の推進もままならない。こうした場合など、状況に応じて柔軟に対応策を講じることができる「共同規制」や「アジャイル・ガバナンス」が適していると言えます。
Q 情報開示、自主的体制整備を怠った場合はどうなるの?
A 義務違反があった場合は、勧告や措置命令、罰則の対象となりますが、「透明化法」では、そうした措置に加え、特定デジタルプラットフォーム提供者と関わる市場関係者や第三者である有識者も交えて、取引上の課題について議論するプロセスを重視しています。このプロセスを「モニタリング・レビュー」と呼んでいます。
デジタルプラットフォーム提供者と、プラットフォームを利用する事業者の間に認識のギャップがあれば、それを第三者の目線も踏まえて是正していく。これにより取引関係の透明性も高まることが期待できます。
様々な立場の人たちの声を踏まえて、年に1回「モニタリング・レビュー」を...