動画を取り巻く環境が変わっているのは、生活者の視聴時間や視聴態度だけではない。映像を制作する現場においても最新技術による変化が起きている。美術セットの大量廃棄や天候・時間に左右される外ロケの課題をどう解決しているのか。「Hibino VFX Studio」を運営するヒビノに話を聞いた。
美術セットの制作・廃棄をなくす環境に優しい撮影技法
音響機器の輸入販売やディスプレイ開発、コンサート・イベントの音響・映像サービスなどの事業を手掛けるヒビノは2021年7月、バーチャルプロダクションスタジオ「Hibino VFX Studio」のサービス提供を開始した。
「Hibino VFX Studio」とは、超高精細の大画面のLEDディスプレイシステムやカメラトラッキング・システム、リアルタイムエンジンを活用した最新鋭のxR※1スタジオのこと。このスタジオでは、In Camera VFXという、CG背景を映した大型LEDディスプレイの前に出演者や小道具を配置して撮影する技法を用いて映像コンテンツを制作している。
「Hibino VFX Studioはバーチャルプロダクション※2に特化した撮影スタジオです。使用しているLEDディスプレイは解像度にすると4K超。スタジオの広さは50坪ほどですが、リアルに近い臨場感と奥行きのある映像を撮影することができます。このIn Camera VFXという撮影手法ではLEDディスプレイに背景を映し出すため、これまでの撮影とは違い、大規模な美術セットを組む必要もありません。それらの大量のセットを撮影後に廃棄することもないので環境に配慮して映像を制作することが可能です」(芋川氏)。
リアルなライティング表現が映像を現実世界に近づける
In Camera VFXを用いての映像制作は、『スター・ウォーズ』初の実写ドラマ化シリーズで映画関係者の間で話題になった。その後は長尺コンテンツだけではなくMVやCMなどにも活用されている。
世界的にはバーチャルプロダクションでの撮影はかなり進んでおり、日本は後れをとっている状況だと芋川氏。この後れの一因には国ごとの環境に対する意識の違いがあるのではないかと話す。
「国連が気候変動について議論するCOP26が開催されたイギリスでは、広告業界3団体が主導し、「アド・ネットゼロ(広告制作による温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする)」の取り組みがスタートしました。つまり、国が一丸となって撮影時の環境への配慮のためにバーチャルプロダクションを推進しています。当スタジオは開設以来、環境に配慮した映像技法であるIn Camera VFXのプロモーションを積極的に行っています。現在はCM制作を中心に案件が増えてきました」(芋川氏)。