DX推進の方針や戦略を決定するのは経営層だ。しかし、その戦略を実行するのは現場の社員であることがほとんどであり、上層部と現場の意識に齟齬があることも多い。DXを組織全体で進めるために必要な意識とは何なのか。「インバウンド」の思想でビジネスを行うHubSpot Japanの伊佐裕也氏が同社の取り組みを話す。
DXの進捗度への意識 経営層と現場社員にギャップ
コロナ禍では従来のフェイス・トゥ・フェイスの営業からオンラインツールでの商談への移行を余儀なくされた。しかし外出規制の緩和やアフターコロナへの対応も進む中では訪問営業を復活させている企業も多い。
それでは、訪問営業は買い手に望まれているスタイルだったのだろうか。CRMプラットフォームのSaaSを提供するHubSpotが実施しているBtoB企業を対象にした「日本の営業に関する意識・実態調査2022」によると、買い手にとって好ましい営業スタイルは「訪問・リモートどちらでもよい」という回答が昨年の1.5倍に増加。コロナ収束後も時と場合に合わせた柔軟な営業スタイルを好むという回答が多かった。一方、売り手側は約6割が訪問営業を好むと回答。売り手と買い手の間で価値観の違いが見られたという。
「買い手の価値観が変化していることを売り手はしっかりと理解し、それに対応する必要があります」。こう話すのはHubSpotで事業全体の責任者として営業も含めたマネジメントを務めるシニアマーケティングディレクターの伊佐裕也氏だ。
「本調査は営業の現場社員、リーダー、経営者それぞれ515名の計2060名を対象に行っています。興味深いのは、営業DXが進んでいると考えているのは経営者やリーダーなどの上層部が多いこと。つまりデジタルツールを導入する決裁権がある人々です。しかし、それらを実際に活用するのは現場の社員。ツールを導入するだけでDXを進められたと考えている経営層と、それを活用できていない現場では意識に違いがあるのです」(伊佐氏)。
そもそも営業DXで実現したい目的とは何なのか。戦略を立案する経営層、それを実行する現場の営業部員の意識にずれがあることがわかる。伊佐氏は、営業をはじめとした組織のDXに必要なことは、「まずは顧客にとってどんなメリットがあるのかを明確にすること」と話す。単なる自社内の業務効率化にとどまらず、真に顧客にとっての価値創造につながってこそ、DXの目的が実現する。そして、この目的を明確にしたうえで、それを組織全体に浸透させることが大切なのだという。
「DXの真の目的は顧客への価値提供です。それをリーダーが理解し、責任をもって伝えていかなければ実現は難しいでしょう」(伊佐氏)。