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生活者と共創する、新時代のブランドオーナーたちの視点

フラクタ

生活者とダイレクトにつながる時代には、ブランドにはどのような役割が求められるのだろうか。変化するブランドのあり方や生活者との関わり方について、カテゴリーの異なるブランドオーナーが集まり、座談会を開催。その様子をレポートする。

FRACTA
代表取締役
河野貴伸氏

ディプロモード
第1事業部部長兼
プロジェクト“MOONRAKERS”代表
西田誠氏

グリラス
事業戦略本部長
Marketing Director
一色範彦氏

魅力的なパーパスだけでは売上の課題は解決できない?

河野:ブランドオーナーとして、皆さんはそれぞれのカテゴリーにおいて、どのような課題をお持ちですか。

一色:私はグリラスという会社で、コーポレート全体のマーケティングや、昨年6月にフラクタさんと立ち上げた食用コオロギを使った食品のブランド「C.TRIA(シートリア)」のブランディングを担当しています。タンパク質危機や食品ロス削減といった社会課題の解決を目指して立ち上げられたブランドです。

しかし「社会にとって良いものをつくっている」と言うだけでは、なかなか振り向いてもらえないことが課題。国内では、社会課題の解決という特性を打ち出しても、それだけではまだ消費を引っ張っていくだけの段階にないのが現状だと感じています。

もうひとつの課題は、従来であれば購買の意思決定が店頭で瞬間的に行われがちな「食品」カテゴリーにありながら、商品やストーリーのことをしっかり知って買っていただかなければならないという点です。商品の機能や背後にある物語も含めて商品価値と考えていますが、一般的な食品のカテゴリーで、深い商品理解を促すことの難しさを感じています。

西田:「MOONRAKERS®」は、「先端素材による未来のファッション」を創造するプロジェクトとして、東レグループが立ち上げた取り組みです。消費者との直接的な接点やデータを持つ企業が大きく成長するなか、東レグループとしても、消費者の動きをとらえ、開発など事業スピードを高速化する活動の一環として生まれました。

最初はクラウドファンディングを活用したテストマーケティングという形のプロジェクトだったのですが、昨年実施したクラウドファンディングで消費者の高い評価を得たことから、一気にD2Cブランドとしての展開をスタートしています。

現在、抱えている課題は、まず魅力的なプロダクトを単品ではなくラインアップで揃えること。フラクタさんとECサイトを制作し、単品のコートでブランド運営を始めたあと、ヒットしたアイテムであっても単品展開では限界があることを認識。商品ラインアップの拡充に注力したのですが、“先端素材を使用した今までにない商品”という難しいモノづくりを達成し、魅力的な商品を迅速に揃える難しさを実感しました。また商品が徐々に揃いつつある現在は、つくった商品を消費者に認知してもらうことに課題を感じています。

河野:どちらのブランドも10年後、100年後の「未来」を見据えた、魅力的なパーパスを掲げていますよね。一方で直面する課題は、「今」の商売に必要不可欠な部分です。重要なのは、パーパスだけあっても、魅力的なプロダクトがなければビジネスは成立しないということ。お二人はこのプロダクトとパーパスの関係性について、どうお考えでしょうか?

西田:ブランド運営を1年弱行う中で、自分たちが目指すパーパスは「先端素材を使用した今までにない商品をつくること」ではなく、「先端素材を使用した新しい商品を通じて、人々の生活を豊かに変えていくこと」ではないのか?と考えるようになりました。現在、そのポイントをより強く反映した修正を検討しています。まだ固まりきっていませんが、「先端素材と日常生活をダイレクトにつなぎ、快適で便利で、そして美しい“ミライの生活”を提供する」というのが現在のイメージです。

東レはメーカーなので、情報発信をしようとすると、どうしてもプロダクトの魅力を押し出す形になりがちです。しかし、生活者が求めているのはプロダクト自体でなく、毎日の生活をより気持ちよくするための手段です。その手段として、私たちの技術があり、プロダクトがある。当たり前なのですが、メーカーが消費者と相対するにあたって、この意識転換をしっかりと行う事が非常に重要と考えています。

一色:私たちは商品ブランドの立ち上げに先立ってコーポレートブランドの基礎を固めました。創業者の想いの言語化から始まり、掲げたのが、『コオロギの力で、生活インフラに革新を。』という会社のミッション。会社としては、この方針に向けて進んでいくという道筋ができました。

しかしそれをいざプロダクトに落とし込んだとき、想いを詰め込んだだけではまだ十分でないということがわかりました。大学発のベンチャーであり技術力には自信がありましたし、社会課題に真剣に取り組む姿勢も誰にも負けない自信はありました。もちろん商品は私たちのパーパスの体現を目指したものですが、社会に対する価値の提案に加えて、お客さまにとってのベネフィットをいかにつくれるかが重要だと感じています。

河野:お話を伺って、実際に成功しているブランドほど、パーパスを柔軟に変化させているのだと思いました。なぜなら、ブランドが相対しているのは生活者。もちろんパーパスの土台はあるけれど、生活者が求めていることや環境は日々変わっていきます。決めて終わりではなく、コミュニケーションを取る中で、改めて「これでいいのか」とパーパスに向き合う。常に問いかけ続けることが大切なのではないかと感じました。

2021年7月にオープンした「MOONRAKERS」の東京日本橋ショールーム。可動ラックが、ストックとディスプレイを兼ねている。

ブランドを成長させるためにもリアルな体験は欠かせない

河野:先ほど提供価値のお話がありましたが、お二人が考えるブランド体験について教えてください。最近はD2Cブランドが増え、デジタル発のブランドが次々と登場していますが、やはりリアルな体験の重要性を無視することはできません。とはいえ、新しいブランドが店舗をつくるなど、いきなりリアルの場に出ていくことは難しい。そのあたりはどのようにお考えでしょうか。

一色:リアルな接点は重要で、私たちはマルシェや百貨店の催事などによく出店しています。まずパッケージが目について、『コオロギ』ということでさらに関心を引く。そこで、押し売りではなくスタッフが声をかけて、お客さまの反応を見ながら『この人は料理をするから原料を提案した方がよい』とか『クッキーがよい』とか、瞬時に判断して提案します。食用コオロギを使った食品の喫食機会を増やすためにも、こうした接客や試食の場は非常に大切です。

西田:私たちもリアルの場の重要性を強く感じています。ただ、東レグループとしてはお客さまと直接やりとりする経験が少なく、実店舗の展開にノウハウがありません。それもあり、実験検証として日本橋にショールームを構えました。やってみて分かったのは、圧倒的な費用負担の重さです。店舗の内装、家賃、販売スタッフの人件費。これは私たちのようにスタートダッシュに成功したブランドにとっても非常に重い負担です。実店舗の重要性は皆分かっているけれど、そこに踏み出せない理由もよく理解できました。

この問題意識を踏まえ、先日、銀座で百貨店が主催するポップアップストアに声がけいただいた際に、D2Cブランド3社合同出店という形にトライしました。同じような世界観を持つブランドが集まることでコストを分担・軽減し、悩みを解決できないかという実証実験です。これは非常に良い結果を得ていて、今後はショールームも含め積極的に協業を行い、こうした展開を加速していきたいと考えています。

河野:ブランドがリアルの体験から得られるものは非常に多いですよね。お客さまから直接様々な声を聞くことができますし、その反応は場所ごとにも違う。いろいろな方とコミュニケーションしていくなかで、ブランドの目指す姿やプロダクトそのものが、アップデートされていくのだと感じます。

2022年3月18日~4月10日まで開催された、SAKURA FES NIHONBASHIの様子。

生活者と一緒になって楽しく、より良い未来を共創する

河野:今後のお客さまとの関係づくりについて、伺えますか。

西田:今は個人がメディアになる時代。ファン個人との濃いつながりをつくっていきたいと考えています。例えば当社に「素材の45%が空気でできたスウェット」があるのですが、あるお客さまから「この商品のネックウォーマーがほしい」と言われました。これまでなら、仮に前向きに進めるにしても「次のシーズンで検討します。ご期待ください!」と返すシーン。

しかし今は、「では生地を送りますので一緒につくりませんか?」と提案しています。お客さまはネックウォーマーをすぐに手に入れ、当社はお客さまのアイデアをもとに、共に商品開発を進められる。そうしたことをいくつも進めているのですが、本当にいろいろなアイデアが出てきて楽しいです(笑)。これからはSNSに限らず、双方向の協業の時代。お客さまとは先ほどの話のように濃いつながりを持ち、もちろん同様に、志を同じくするあらゆる方々と積極的に協業・共創を進めていきたいと考えています。

一色:私たちはこれからファンを獲得していくフェーズなので、まずは食用コオロギを使った食品への心理的なハードルを下げていきたいです。このとき社会課題の解決策を提案しながら、生活者をグイグイ引っ張っていくのではなくて、ほんの半歩先を進み、一緒に未来をつくるという関係を目指していきます。

河野:ブランドを通じて、お客さまにいかに新しい世界に踏み出してもらい、楽しんでもらいたいかという思いが伝わってきます。またご自身がエンターテイナーですよね。たしかに、ブランド側が楽しそうでなければ、生活者にそれを伝えることもできません。楽しく、よりよい未来をお客さまと共創していくことがまさしく今のブランドに必要になっていると、今日のお話から感じました。

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