顧客接点が実店舗だけではなく、自社EC、モールEC、SNSにまで及ぶようになって久しくなった。そんな現代のCRMに欠かせないのが「デジタルコミュニケーション」だ。強化を考えると「デジタル」に注力したくなる領域。企業が本当に気をつけておくべきことをアダストリアの執行役員 田中順一氏に聞いた。
デジタルコミュニケーションは「人」「モノ」の総合力で勝負する
リアル店舗など、お客さまと直接接点を持つ企業はその接点がデジタル上になったとき、いかにしてお客さまに働きかけるか。顧客の行動を喚起するデジタルコミュニケーションの在り方を模索していると思います。今回は、私自身の取り組みも含めて、このお題に沿って、現在の活動と照らし合わせながら回答を見つけていきたいと思います。
私が属するアダストリアはGLOBAL WORK、niko and ⋯といった約30のファッションブランドを展開する企業。ショッピングモールでの店舗展開が多いブランド群が中心です。このようなブランドの店舗が全国1200店、ECも含めて幅広くお客さまに商品・サービスを展開しています。
そんなアダストリアで私は、10年ほどEC領域に注力し、売上の責任者として従事しています。現在は宣伝部門での仕事に加え、データ分析・活用や広報にも携わり、幅広く業務を担当しています。
その中で私が担っているミッションは顧客接点を増やし、さらに各接点での体験をより良くすること。当社はこれまでアパレル企業として、実店舗や販売員などのアナログな接点を大事にしてきましたが、近年はECでの販売、コミュニケーション、データ活用にも力を入れています。
当社の自社ECサイト「.st(ドットエスティ)」には毎日50万人以上のお客さまが来訪し、年間で30万件を超えるレビューをいただいています。つまりありがたいことに、単なる“売り場”としての役割から、当社の重要な“顧客接点”としての役割も担うほど成長しているのです。
この「EC=顧客接点」という捉え方と、レビューという名の「お客さまの声」が、今回のお題である「顧客の購買行動を喚起するデジタルコミュニケーション」を考えるうえでの大きな鍵です。
活用するデータは「お客さまの声」と「購買データ」
これは私の個人的な考えですが、「デジタルは、ひとつの手段にすぎない」というのが現時点での答えです。当社が実店舗を持っているからということも理由のひとつではありますが、そもそも私はデジタルだけで顧客の購買行動を喚起することは難しいのでないかと考えています。
それでもデジタルコミュニケーションで購買やリピートを喚起すると考えたときに、必要になるのは2つ。「①デジタルでもリアルでも良い顧客体験を提供できる受け皿をつくること」と、「②デジタルでも喚起できる...