「オウンドメディア運営」の極意
☑オウンドメディアのコンセプトは常に疑い、アップデートする
☑編集チームのスキルに適した独立権の確立
☑コンテンツ制作のポイントは「最大公約数」「最小公倍数」「遊び」
“オウンドメディア”という存在は根本的に無用である
オウンドメディアは根本的に無用である、というのが私の意見です。オウンドメディアの用途は多岐にわたりますが、企業の各部門が本来の役割を完遂していれば、そもそもオウンドメディアの存在意義はないと考えているからです。
私の考える「オウンドメディア」とは、各部門の弱点を映し出す鏡であり、それらを補完する任務を負っているもの。いわば企業戦略の末席に控えている脇役の用心棒といった風体です。マーケティング、経営企画、広告、ブランディング、営業、広報、人事、教育、事業開発など、いずれの領域にも睨みを利かせつつ、主役を張ることは滅多にありません。ときには関係部門にとって目障りな役回りを演じなければいけない場合もあります。
たとえば、短期的に成果を出さなければならないマーケティング担当者の目には、ブランディングという雲霧に逃げ込む非効率な施策に映ることもあります。クリエイティブにこだわるブランディング担当者の感性に照らすと、許しがたい表現を乱発する媒体とみなされるかもしれません。
しかし、企業全体を俯瞰した形でオウンドメディアを適切に使いこなせれば、マーケティングの効率化やコスト削減の促進、あるいは既存のブランディングでは手の届かなかったコミュニケーション手法の確立も容易となります。さらに商品開発の新たなヒントを見つけたり、優秀な人材を採用したり、企業戦略を立て直したりすることも可能です。
つまり、企業全体における課題とチャンスをいち早く察知し、まだ誰も対応できていないその空白地帯に先陣を切って突撃することこそ、オウンドメディアの本質だと理解しています。
そして全社を横断しながら、複数の事業戦略とメンバー(従業員)のマインドを束ね、課題解決の手法を各部門の業務に落とし込んでいかなくてはなりません。自らを無用とする地平に向かうことによって、オウンドメディアは自らの任務を完遂します。用心棒たるもの、主人の平安を招けば、お役御免というわけです。
しかし実際には、企業における課題とチャンスは際限なく生成されるため、その分だけオウンドメディアの活用の余地も広がることになります。近年コーポレートコミュニケーションの役割がオウンドメディアに託されるようになったのも、その一例といえるでしょう。プラットフォームが多様化するなか、お客さまとの恒常的な関係を築くためには、オウンドメディアをさまざまな施策の実験の場として積極的に使う必要性が増しているのです。
失敗するオウンドメディアの特徴「手段を目的にすり替えてしまう」
使い勝手がよく、使い道も無辺に及ぶのが、オウンドメディアです。その反面、多くの関係部門の意見に左右されやすく、目的も玉虫色になりやすいという欠点をあわせ持っています。オウンドメディアで失敗する多くの企業は、ひとつの「手段」にすぎないオウンドメディアを、知らずしらずのうちに「目的」にすり替えてしまい、費用と効果の測定に苦しみ、そして定性と定量の間で葛藤し、ついに投資価値を判断できない状況に陥っているはずです。
実は失敗するオウンドメディアにはいくつかの法則があります。ですが裏を返せば、成功の確率を高めるためのメソッドも同時に存在する、ということを忘れてはいけません。
ここでは紙幅に限りがあるため、先述の成功のメソッドを「目的」「独立」「省力」の3点に絞って簡易的にお伝えします。識者の反論もあるかもしれませんが、今まで私が立ち上げたオウンドメディアは高評いただいておりますので、実務家の皆さまの参考にはなるかと思います。
メソッド①
目的とコンセプトは分けて考える
オウンドメディアの運営では、目的の設定が重要です。たとえば売上、送客、問い合わせなどのコンバージョンをKPIに据えれば、おおかたの社内の賛同は得られるはずです。ブランドを毀損せずに売上に寄与していれば、失策などと揶揄されることはないと考えています。
ですが、ここで注意したいのは、事業貢献の具体的な方策を明示できずに、曖昧な目的を定めてしまうことです。その典型例がブランディング。この横文字を目的として多用するようであれば、担当者は冷徹な現実直視を怠っている可能性があり、黄色信号が点っていると考えます。
オウンドメディアという言葉自体も同じように注意すべきです。「存在するだけで価値がある」というような考えではなく、企業に存在していることで発生している効果を、どのように測定するかを考え抜いていないオウンドメディアは成功率が下がってしまいます。もちろん熟考の上であれば、ブランディングを目的にしても何ら問題ありません。
目的が固まったら、コンテンツ制作の指針となるメディアのコンセプトを決めます。目的を達成するためにふさわしいコンセプトを考え出さなければいけないのですが、ここにも大きな落とし穴が待ち構えています。それは、一度コンセプトを決めるとそれ以降、目的とコンセプトをワンセットで考えてしまい、両者は不可侵だと盲信しがちだということです。
オウンドメディアの運営の際は、目的とコンセプトは分けて考えたほうがよいと思います。前者の目的は開始当初からの確固たる方針が必要ですが、後者は変更と微調整を何度重ねても構いません。それどころか、常に自らのコンセプトに疑いを...