広告マーケティングの専門メディア

社会学の視点

駄菓子屋の奥には誰がいる?

遠藤 薫氏(学習院大学)

異界に続く大ヒット児童書たち 人を惹きつける理由は?

コロナで孫たちにもなかなか会えなかった。久しぶりに会うと、すっかり大きくなっていてびっくりである。本が好きというので書店に行った。広いフロアをぱたぱた走り回って、早速お気に入りを見つけたようだ。でもそれは、私が何となく予想していた本とは違っていた。

5歳の女の子が抱えてきたのは、ヨシタケシンスケさんの作品で一見、可愛い絵本に見えるが、ちょっと違う。『りんごかもしれない』は、テーブルに置かれたりんごを見て、「もしかしたらりんごじゃないかもしれない」と疑いはじめ、次々と奇想天外な「りんごに見えるけれどりんごじゃない可能性」を妄想していく。思わず笑ってしまうと同時に、少し世界が違って見えてくる。

10歳の男の子が差し出したのは、『5分後に意外な結末』シリーズだった。学校で読書委員をやっていて、朝のホームルームで面白い話を紹介する担当なんだそう。内容を見ると、ジェイコブズの「猿の手」など、奇妙なコワ味のある短編アンソロジーである。「怖くない?」と聞くと、「すごく受けるよ」という。ふうん。うちの孫たちは変わっているのかな。

ところがどっこい。この2冊、とんでもないベストセラーらしい。ヨシタケさんの本は何度もMOE絵本大賞で選ばれている。「5分後」シリーズは累計400万部超えだという。

ほかにもある。『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』シリーズは、路地に隠れるようにある駄菓子屋銭天堂に迷い込んだ客が、店主の紅子さんからすすめられた奇妙な駄菓子を買うことで、幸不幸の岐路に立つことになる。不気味な魅力を放つこの作品は累計380万部を突破し、児童書としては異例だという。

『銭天堂』のポイントのひとつは、路地裏の駄菓子屋、という場所性だ。最近では「路地裏」はすっかり見かけなくなったが、細くて見通しがきかず、どこに通じているのかわからない。不意に異界の妖怪に出会うことだってありそうな気がする。そして「駄菓子屋」。そこには一見なんだかわからない奇態な商品があふれている。変装用の鼻眼鏡とか、当たったところを見たことのないくじとか、ただただくじをするためだけのくじとか⋯。

菓子類はたいてい毒々しく着色されていて、食べると口の回りや指先がべたべたに汚れた。だから親たちは子どもが駄菓子屋に出入りすることに良い顔をしなかったし、薄暗い店の奥に座っている店主のおばあさんも、子どもたちが品物に乱暴に触ったりするのを警戒して、怖い顔をしていた。いわば、駄菓子屋という市場は、得体の知れない商品と子どもたちが、敵に取り囲まれながらも、彼らだけの帝国を創り出す場だったのかもしれない。

『銭天堂』(だけでなく、ヨシタケさんの絵本や『5分後』も)からはその雰囲気が強烈に立ち上ってくる。それがヒットの秘密だろうと思う。立派な大人たちが喜びがちなお洒落な絵本とは違う、子どもたち(と大人にならない大人たち)のリアルがそこにある。

学習院大学
法学部 教授
遠藤 薫氏

東京工業大学大学院修了、博士(学術)。日本学術会議連携会員。専門は社会学、社会システム論、社会情報学。著書に『ロボットが家にやってきたら⋯人間とAIの未来』(岩波書店)、『ソーシャルメディアと公共性』(東京大学出版会)、『ソーシャルメディアと〈世論〉形成』(東京電機大学出版局)など。

社会学の視点 の記事一覧

駄菓子屋の奥には誰がいる?(この記事です)
愛しのミニチュア・ドール
人生ガチャもガチャのうち
メタバースにようこそ
推し活が「イノベーションの民主化」を駆動する?
YOASOBIにみるネット空間のナラティブと共創

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
宣伝会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する