事業会社のメタバース活用が続いているが、広告クリエイティブというアウトプットの領域においては、メタバースを活用することでどのような可能性が拡がっているのだろうか。三越伊勢丹の「REV WORLDS」をはじめ、メタバース空間の広告制作などに携わるhakuhodo-XRのリーダー尾崎徳行氏に聞く。
仮想現実ではなく、もうひとつの現実世界
私は通常の広告クリエイティブに加えて、ここ数年XR領域のクリエイティブやビジネス開発などにも携わっています。リーダーを務めているhakuhodo-XRは、博報堂DYグループ横断のプロジェクトでグループ9社をひとつながりに、研究開発からコンサルティング、プランニング、クリエイティブ、制作・運用までを、案件ごとに最適なチームを編成して様々なクライアントの課題解決のお手伝いをしている組織です。その中で最近感じている、メタバースとクリエイティブの可能性についてお話しできればと思います。
「メタバースとは何か?」クリエイターの皆さんは、まずここから考えると思います。メタバースはいわゆるMeta(超)とUniverse(宇宙)を組み合わせた造語であり、「インターネットの次なるもの」「通信ネットワーク上に作成された3次元の仮想空間」などと説明されたりしています。
ある種のワールドであり、その本質は様々な議論がなされている最中だと思うのですが、ひとつの見立てとして「もうひとつの現実世界」と捉えてみることが大切ではないかと考えています。つまり、仮想現実ではなく、もうひとつの現実だと認識することで、様々な可能性をグッと引き寄せることになるのではないかと思うのです。
事業ドメインに立ち戻り 提供できる価値を考える
最近、様々なクライアントのトップの方と話をする機会があるのですが、面白いことに必ずと言ってよいほど、企業やブランドの本質価値の議論になります。なぜならば、メタバースを「もうひとつの現実世界」と捉えたときに、その世界で自分たちは何を提供できるのだろうか?というシンプルな問いに直面するからです。
そこで生活者が実世界と同様に暮らし始めるのであれば、それはもう新しいマーケットであり、その暮らしを深く見つめる必要がある。
保険業界であれば、そこにある暮らしのリスクは何か?ビューティ業界であれば、もうひとつの現実世界で生息する人の気持ちに寄り添った美しさとは何なのか?コンビニ業界であれば、この世界における“コンビニエンス”とは何だろうか?といった根本的な問いに遡ります。事業のドメインに立ち戻って、メタバースに焦点を照らし合わせてみる、といった思考の体操が始まるのです。
そして、実はそこにクリエイターがお手伝いできる余地が大いにあるのではないかと感じています。メタバースにおけるブランドの提供価値をパーパスから規定することもそうです。その提供価値を...