メタバースが活用されているのは事業会社だけに留まらない。最新の技術を駆使して新たな価値を生み出しているのは映像の制作現場も同じだ。昨年12月に発足した「メタバース プロダクション」の小笠原 悟氏に、メタバースで変わる映像制作の現在地を聞いた。
世界で注目を集める制作技法「バーチャルプロダクション」
トレンドワードとして、「バーチャル」や「メタバース」という言葉をあらゆる業界で耳にするようになりました。映像制作の現場でも同様で、数年前から注目されてきています。ここでは、バーチャルの活用で変化する「制作現場の今」を、昨年発足した「メタバース プロダクション」の活動を通じてお伝えします。
まず「バーチャルプロダクション」とは、バーチャル空間を活用し、リアルタイムで映像を制作する技法の総称です。「バーチャルプロダクション」にはいくつか種類がありますが、「インカメラVFX」(後述)という技法で撮影された、『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズ『The Mandalorian』は完成度が高く、世界の映画関係者からの脚光を浴びました。日本でも昨年から「インカメラVFX」を活用した映画やMV、ドラマの制作が増えており、2022年は“バーチャルプロダクション元年”といえる年になりそうです。
従来の制作ワークフロー「大量消費」からの脱却を実現する
バーチャルが制作にもたらす大きな変化として、環境負荷の低減があげられます。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催された英国では、広告業界3団体が主導し、「アド・ネットゼロ」(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること)の取り組みが2020年11月からスタートしました。
従来の映像制作ワークフローでは、美術セットを組んで撮影が終わると約2トンもの廃棄物が出ることもあり、英国でのこの動きはSDGsの達成に欠かせないものです。
私たちの映像制作ワークフローにおいても「大量消費的な制作からの脱却」と「テクノロジーによる効率化」については積極的に変革していくべきポイントだと考えています。
さらに、制作スタッフの労働環境の改善も重要な課題のひとつ。この数年間で改善された部分もありますが、まだまだ課題は山積みです。これらの課題を解決できる方法が「バーチャルプロダクション」でした。
しかし、これらの大きな変革を1社単独で成し得ることは難しく、映像制作の最大手である東北新社、そしてLEDディスプレイソリューションのパイオニアであり「インカメラVFX」の実績を持っていたヒビノに声をかけたところ...