講談社が刊行する『ヤングマガジン』は昨年末、連載作品のNFT化を開始。電子化が進む「マンガ」という媒体に、新たな販売方法の選択肢を提示した。単行本ごとに購入するのが主流のマンガだが、NFT化することで具体的に何が変化するのか。作家と作品の在り方、そして今後の出版社におけるビジネスの可能性について、『ヤングマガジン』編集部の小林伸裕氏が語る。

『code:ノストラ』のメインビジュアル。
©安童夕馬・明石英之/講談社
どうやって新しい作品に注目してもらうのか
昨年12月27日、『ヤングマガジン』編集部が2021年の最後に送り出した本誌で、新連載『code:ノストラ』(原作:安童夕馬/漫画:明石英之)がスタートしました。この作品は、『金田一少年の事件簿』『探偵学園Q』などを手掛けた原作者と実力派漫画家によるSFアクションです。
担当編集である筆者としては、とても力を入れたい、読み応えのある作品であり、おそらくは世界で初めての試みにチャレンジしました。
そのチャレンジとは、掲載した全ページをNFT化し、本誌発売から48時間以内のうちに1ページ単位で販売を開始したこと。これまで数えきれないほどのコンテンツがNFT化されていますが、連載中のマンガ作品が世の中に出てすぐNFT化される形は、なかったはずです。
マンガは紙だけで読まれる時代が長く続きました。1990年代後半からWebでの展開が始まり、電子書籍化され、今ではアプリで読むのも当たり前になっています。そうした変化の流れに、講談社は出版社の中でもいち早く参入し続けてきました。会社自体が新しいテクノロジー、プラットフォームに対して興味を持ち、かなり積極的です。トップの決断も速く、編集部の現場から提案するとすぐにOKが出ます。今回のNFT参入も、こうした取り組みのひとつだと考えています。
そもそも、なぜNFTを手掛けることになったのか。もともとはNFTのプラットフォームである「KLKTN」(コレクション)から、編集部にお声掛けいただいたのがきっかけです。KLKTNさんはすでに、音楽関連のNFTを展開していて、また暗号資産ではなくクレジットカードでの決済が可能なユーザー参加のハードルを下げるシステムを持たれていました。
では、ヤンマガらしいNFTとは何か。最初に思いついたのはこれまでヤンマガが発信してきたレジェンド作品のNFT化でした。過去の人気コンテンツを使った取り組みは失敗も少ないかもしれない。でも、“ヤンチャ”な編集部として読者の期待に長年応えてきたヤンマガとしては、どこか物足りないものがあります。
今は、オンラインで過去の名作が手に取りやすい時代です。どの名作も時間を忘れてしまうほど没頭させてくれるパワーが確かにあります。だからこそ、新連載の作品を認知してもらうのが以前より難しくなってきていると痛感していました。