目指すべき方向を示すため、各企業が考え抜いて掲げている「企業理念」。理念に使用されている「言葉」は、組織や働く社員にどのような影響を与えているのか。早稲田大学商学学術院の柴野良美氏が調査結果を解説する。
組織の目指す方向である企業理念 含まれることが多い“ワード”は?
近年は、社会の変化に合わせて、企業も変化が求められる時代。組織を新しい方向に動かしたいと考える経営者も多いのではないでしょうか。企業は目指す方向を、理念・ビジョン・社是・パーパスなど様々な形で表しますが、こうした理念により組織を目指すべき方向に導くことができるのか。本稿では使用されている「言葉」に着目し、考察します。
まず、企業が実際に掲げている理念を見てみましょう。稲盛和夫氏が名誉会長を務める京セラは、経営理念「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」を掲げています。トヨタ自動車はVISIONとして「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える。」を掲げています。ソニーグループはPurpose(存在意義)として、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を掲げています。表現は様々ですが、それぞれの企業は理念により、組織の目指すべき方向を明らかにしています。
もう少し広く、日本企業が全体的にどのような理念を掲げているのかを確認してみましょう。ここでは、データ分析の客観性を担保するため、テキストマイニングという手法を用いて分析します。テキストマイニングとは、テキストをマイニングする(採掘する⇒情報を取り出す)という意味です。
この調査では、日本の上場企業の理念をホームページや開示資料から収集し、その中から一定期間継続して掲げられている813社の理念を分析の対象としました。そして、企業理念のテキストデータを、分析ツールKH Coderにより分析。その分析結果が【図表1】の共起ネットワーク図です。
共起ネットワーク図とは、語句を出現頻度やそのパターンにより関連付けて表示したものです。円の大きさは語句の出現頻度の高さを表し、円の近さは語句が一緒に出現する割合が高いことを表します。図表から企業理念に「社会」を掲げている企業が多いこと、そして、同時に「貢献」や「顧客」を理念に含む場合が多いということがわかります。※1