モノに対する執着が薄れているといわれるなかでも、存在感を発揮し続けるグローバルで展開されるラグジュアリーブランド。時代が変わるなかで、ラグジュアリーブランドはどう進化を遂げていくべきなのか。4名のラグジュアリーブランドのマーケターが議論する。

(左から)
アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.
個人事業部門
マーケティング部 副社長
杉本 美穂氏
ビー・エム・ダブリュー
ブランドマネジメント
ディビジョン 本部長
遠藤 克之輔氏
リシュモン ジャパン
A.ランゲ&ゾーネ
リージョナルブランドCEO
山崎 香織氏
祇園辻利
常務取締役
三好 正代
※所属企業名はフォーラム開催当時のものです。
杉本:私たちの研究会では、まず「そもそもラグジュアリーとは、何?」というところから話を始めたのですが、議論を通じて「時を超越し、ストーリー、希少性、社会での位置づけに顕わされニーズや問題解決でもなく生存には必須ではないが、人生には欠かせないものであり私が何ものであるかを定義しメンバー、コミュニティ、帰属感がともなう」という5つが基幹要素なのではないか、という結論に至りました。
その定義に基づき、次に取り組んだのがTensionです。Tensionとは張力のことで、2つのものを繋ぐ紐がピンと緊張している状態のことです。緊張の両端で対峙するものが何か、そしてそれがどうバランスを保っているのかを理解することは、マーケティングにおいて非常に有効な洞察となります。
今日はチームがセッションから掘り起こした4つのTensions、Scarcity(希少性)⇔Supply(供給)、Promise(約束)⇔Manifest(実行)、Sumptuous(贅沢)⇔Sustainability(持続可能)、Growth(成長)⇔Privilege(特権)について各ブランドの取り組みや課題を紹介させていただきます。それではScarcity(希少性)とSupply(供給)のテンションについて、A.ランゲ&ゾーネの山崎さんよりお話しいただきます。
山崎:私たち、A.ランゲ&ゾーネの腕時計は、すべて職人が手作業で組み立てています。使用される部品は数百に及びますが、一度組み立てたらすべて分解して、再度組み立てなおして、作動を確認します。それゆえ、需要に応える提供をしていきたいものの、お客さまに提供できる本数も限られてしまいます。希少性の担保と求められる供給のバランスは永遠の課題と言えると思います。
三好:私たち、祇園辻利でも同様の課題があります。上質のお茶は栽培も非常に重労働ですし、石臼で曳いてお抹茶にすると1時間に40グラムしか生産できません。最近は茶畑が減反されたり、農作業を担う農家の方々の後継者問題があったりして、一次産業を担う方々に労働に見合う対価をいかに還元し、仕事の継続につなげていただくかは課題になっています。
杉本:続いては、Promise(約束)と...