広告マーケティングの専門メディア

           

「経験エコノミー」における製造業の課題と考え方

『トキ』をデザインする『愛着』が叶えるライフ・トランスフォーメーション

小西利行氏(POOL INC.)

今も語られる日産「セレナ」の「モノより思い出。」という名コピー。1990年代に生み出された広告コピーだが、現在の経験価値がより重視される時代においても通用する鮮度がある。制作を手掛けた小西利行氏は、現在の社会環境でこのコピーをどう思うのか。

トキの使い方を提案し人生をデザインするコピー、「モノより思い出。」は、時が経っても多くの人の心に残り続けている。

「モノより思い出。」モノ経済から経験経済へ

「モノより思い出。」というキャッチコピーを書いたのは、1999年。未だに「僕の座右の銘です」と言ってくれる若者がいたりするのですが、実は今からもう20年以上前のコピーなのです。

当時は、バブルが終わって数年経った頃。世の中の景気は冷えていて、街には活気がなく、でも、バブル時代の忙しさだけが残っていました。いや、実際の仕事は減っていたけど、馬車馬のように働いていた大人たちが、家に戻れず、働くことに逃げていた、悲しい時代だったかもしれません。

そんな時代背景で発売された「セレナ」は、いわゆるファミリー向けのミニバン。ターゲットは子育て世代だったので、コミュニケーション開発はなかなか難しいものでした。なにせ、「子育てから逃げているお父さん」を巻き込んで、「セレナ」を選んでもらうようにしなければならない上に、まだ20代で子どもがいなかった僕とすれば、「お父さん世代」に共感してもらえるかもわからなかったからです。

結論としては、「モノより思い出。」という言葉で、本質的な「子育てへの向き合い」を促すキーワードとして世に出ることになりましたが、今から思えば、実際に子どもを育てていなかったからこそ、親の世代を突き動かす「理想」を掲げられたのかもしれないなと思っています。

ただ、このコピーが世の中に受け入れられたのは、ただ時代に合った子育てのテーマだったからじゃなく、「モノ経済から経験経済」への転換点として機能したからでしょう。まさに、バブルを経て新しい生き方を模索する人々へ、「経験が重要だよ」というメッセージが突き刺さったからこそ、新しい幸せを求める若者やお年寄りまでも巻き込むうねりとなったのだと思います。

モノでもコトでもなく「トキ」の時代へ

さて、僕は、買うことがゴール(買ってもらえればいいという売る側の目線)とされていた当時から、目線は常に生活者側にあり、「買うことはスタート」だと考えていました。つまり、買った後の時間を豊かにするためにキャッチコピーやプロモーションを考えていたわけです。

買うことがゴールなら、他社との差別点やおトク情報、さらには有名タレントのCMなどが大切になりますが、買うことがスタートだと考えれば、それらは余計(笑)。逆に、人生を豊かにするスタイルや企業としてのエコ活動など、使っている「トキ」を...

あと60%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

「経験エコノミー」における製造業の課題と考え方 の記事一覧

共感の先のエデュケーションが人を動かす foufouの『遅く』て『重い』コンテンツ
ひとりの壮大なビジョンから生まれる「未来創造の一端を担う」という価値
届けたいのは『使うことで完成する』体験 個々の『生み出す』体験が豊かな社会をつくる
『トキ』をデザインする『愛着』が叶えるライフ・トランスフォーメーション(この記事です)
アフターデジタルの世界で日本メーカーが生き残るには?鍵はUXグロースモデル
『愛』より『信頼』が勝る時代? 企業の社会貢献活動と「体験価値」の関係性
CXからBXへ ─ Afterコロナにおける製造業の新たな価値創造モデルとは
主客一体の「おもてなし」が生む感動をもたらすサービス・マーケティング
加速する「全産業のデジタル化」製造業のサービス化の正体
製品・サービスの『経験の現場』が鍵 経験価値からマーケティングを再構築する
宣伝会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する