日本の広告市場においては、インターネット広告費がテレビ広告費を追い抜くなど、広告メディア環境は大きく変わってきた。ではこの変化は、広告における言葉にも影響を与えているのだろうか。コピーライター/クリエイティブディレクターとして活躍する吉岡虎太郎氏が考える、インターネット登場前と今の違いとは。
人は「動物化」することで消費も生活も実用的になっていく
広告の言葉が変わったのか?ということで、インターネットが今ほど普及していない20年前と比べて考えてみたいと思います。例えばあの頃は、「オタク」という言葉が普通のものになっていった頃でしたよね。インターネットやデジタルが普及して、生活者がパソコンや携帯に向かう時間が長くなった時代です。
ちょうど20年前の2001年、その「オタク化」という現象を事例に用いながら、哲学者の東浩紀氏が『動物化するポストモダン』という本を出版しました。その本の中で東氏は、デジタル化した社会では「動物化」が進むと言っていました。「動物化」とは、その言葉の通り、人が動物のように行動するということです。
動物は、目の前の自然の中から自分の「欲求」を最短で満たすものをチョイスします。例えば、食事や睡眠や安全などがそれにあたる。
一方で、人間は必ずしも欲求を直接的に満たすだけではなくて、自分がどう見られたいかとか、他人とどう違うかとか、もっとドキドキしたいとか、イメージや物語を選ぶ。
東氏が指摘したのは、デジタルは人々が動物のように、自分の欲求や好みだけを求めて生きるようになることを促進するツールだということでした。僕は、この20年間でこの通りの状況になったのではないかと思います。
例えばECでの購買をイメージしてみてください。物が欠乏したら、自分でサイトを開き、自分で購入ボタンを押す。そしたら誰かが届けてくれて、実物が手に入る。便利ですが誰とも会わず...