「イチ推しのメンバー=推しメン」という意味で、2000年代にアイドルファンの間で生まれた『推し』という言葉。転じて「誰かに勧めたいほど好きな人や物」を指すようになり、現在では若年層を中心に広く認知されるようになった。複数の調査によると、いわゆる「推し活」の多くは、インターネットでの情報収集やグッズの購入、ライブなどのイベント参加などが占める。同時にコロナ禍では家の中でできる応援行為として、グラスやゴーグル、ネイルなどに「推し」の名前やモチーフを刻みSNSに投稿するような創作活動も活発化しているという。
本書『ファンカルチャーのデザイン』では、そうした文化が表層化する以前より脈々と、少しずつ形を変えながらも「ハマり」「創る」ことに身を置いてきた、“腐女子”や“コスプレイヤー”に焦点を当てる。著者は、20年にわたり認知科学の領域でフィールドワークを行ってきた岡部大介氏。同人誌即売会やコスプレイベントなどに参加する彼女ら(あるいは彼ら)の「環世界」を対象とし、ファンカルチャーの「知の営み」に迫る。
「環世界(Umwelt)」とは、「この世界がひとつではなく、いろいろな動物において多層的である」という概念だ。唯一無二の...
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