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業界別マーケティング課題 最先端の解決事例

店舗を軽視するブランドに未来はない!? アパレルのECシフト、最適解を考える

深地雅也氏(StylePicks)

コロナ禍で休業を余儀なくされるなど、リアル店舗を持つアパレル企業には厳しい状況が続いている。実店舗での売上減少を補うべく、EC活用、デジタルチャネル開拓の機運が高まっているが、その中で企業はどのような課題に直面し、それを解決しようと試みているのか。StylePicks CEOの深地雅也氏が解説する。

    Point

    01 自社ECを強化し、店舗縮小の傾向が顕著に

    02 店舗からECシフトを進める際、発生する課題は商業施設別に異なる

    03 好きなブランドを知った経路、1位は「実店舗」

店舗集客が憚られる昨今 コロナ禍は、何を、どう変えたのか

新型コロナウイルスによる影響から、私たちの生活が一変して約1年半程度が経過しました。度重なる緊急事態宣言の発令により、アパレル・ファッション関連の店舗集客は大きく落ち込み、2020年の通期決算では大手アパレルの多くが業績を落としています。

そんな状況下において、業界内でよく取り沙汰されるのが「デジタル活用」や「EC」でしょう。昨今は自粛要請があろうが、その効果が薄れてきているように感じることも多々ありますが、それでもマーチャント側が積極的に店舗集客を実施することはやや憚られる状況。どのブランドでもリスクの低いEC売上を伸ばしていきたいというのが本音でしょう。

そのニーズに応えるように、昨年からEC業界でも動きがより活発になった印象があり、現場でも変化が見て取れるようになりました。

しかし、単純にECシフトを強化することが、最適解といえるのかについては、筆者は疑問を抱いています。現状どのような変化が起こったのか?を適切に把握する必要があるでしょう。本記事では、その「変化」について、いくつか見ていきたいと思います。

自社ECの売上拡大とモール回帰 在庫消費とOMO促進が背景に

大手アパレルの決算書でEC売上の内訳を確認すると、伸び率はモールよりも圧倒的に自社ECが高い傾向にある一方、その新規会員獲得数は例年と大して変わらない、という共通点があります。これは「店舗を利用していた既存顧客が自社ECでよく買い物をした」という事実を現しており、特にその傾向が強かったのが2020年の春夏シーズン、つまり1回目の緊急事態宣言後です。

商業施設も休業し、店舗で買い物ができない状況では、商品を購入できるチャネルはECのみ。EC売上が伸びるのは当然です。合わせてソーシャルメディアからECサイトへの流入が激増していたのもこの頃です。

これと同時に発生したのが「ECモール回帰」の動き。2018年の暮れにZOZOTOWNから一部の大手アパレルの撤退が相次ぎました。

しかし、店舗が閉まればそんなことは言っていられず、自社ECだけで捌けきれない在庫は、自動的にモールへ送られることになります。

ECモールでは一時、各社から在庫が寄せられすぎた結果、商品の受け入れが困難になる事態も起きました。また、モールお得意の値引き施策も顕著に見られ、日々8000円~1万円程度の高額なクーポンがまかれるという事態に。値引きの原資の多くがブランド側の負担になることから、どれだけ在庫消化に困っていたかは想像に難くありません。

この変化から、EC支援サービスの整備が加速しました。数年前から流行っていた、オンライン専業からブランドを立ち上げる「D2C支援サービス」も増え、製造から販売・EC運用・サイト構築・物流に至るまで、様々な領域でサービスが拡充されていたのが印象的です。結果的にデジタルインフラが整ったことは、アパレルECの視点から見るとポジティブな面も多いでしょう。

大手アパレルはOMO施策をさらに促進し、店舗を縮小。過去、多店舗展開で規模を拡大してきた大手アパレルが2014年くらいから徐々に店舗を縮小してきた経緯はありますが、ここに来てその動きはさらに加速。中には「EC比率50%」を掲げるアパレル企業も出てきました。

また複数のブランドを抱える大手アパレル企業では、自社ECサイト名で「店舗」を出店し、リアルでも全ブランドを購入できる体制を整えています。

ブランド横断で、顧客データが一元管理されたショップでワンストップショッピングを提案するのは、企業にとっても、顧客にとっても効率が良いものです。

EC強化で発生する課題 実店舗販売員の評価の未整備も

それでは、大手アパレルの思惑通り、デジタル活用が推進され、店舗が縮小されると順調にEC売上が伸び、「リスク軽減」「販管費圧縮」「利益率向上」は実現するのでしょうか。そこには様々な課題が存在します。

課題①:決裁者のリテラシー不足

デジタル活用やEC強化で最大のリスクとなるのが「決裁者のリテラシー」。昨年から小売の大手だけでなく、卸や繊維商社、ODMを生業とする事業者がオンライン専業ブランドを立ち上げています。

※ODM⋯他社ブランドによる製品を設計・製造すること、またはそうしたことを担う会社。

筆者もそのようなプロジェクトに複数関わっていますが、明確な販売戦略がないまま高額なECサイトの構築費をかけた計画がすでに走っていたり、商品を売るための戦略が...

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