広告業界のカオスを生んだのはメディアとの「護送船団」常態化
2020年はコロナ禍により、広告業界においても世界規模でデジタル化の加速とスペンド・シフトに行きついたが、そもそも、広告業界でのデジタル化の流れは突然始まったものではない。インターネットの普及とGoogleをはじめとするデジタル広告プレイヤーの出現により、以前から進んでいた。
どんな業種においても、技術革新により業態の変化を余儀なくされる。先を見越して転換を急ぐ会社と乗り遅れて業績を落とす会社があることも道理だ。よって、広告業界を特殊なものではなく、一般的な業種と捉えると「カオス」という言葉は存在しないはずである。私は広告業界に長く身を置いている。その中で不思議な場面に出くわすことも多々あった。
クライアントの広告予算から計画を立て、媒体局にバイイングの指示を出すことは広告の実施部分の詰めにあたる。予算には限りがあるので、データから適切な媒体を絞って出稿すると、社旗を掲げた黒塗りハイヤーに乗って、出稿しなかった媒体社の営業さんがやってくる。私のデスクに陣取り、「当社に出稿しなかった理由を教えてほしい」と抗議にあうこともしばしばあった。
デジタル化とは遠い話に思えるかもしれないが、私にはこれが日本の広告業界の「カオス」の全ての原因に思えて仕方がない。「護送船団」。長年私の頭から消えない業界の言葉であった。
原価開示に関しての攻防戦が長年繰り広げられてきたことも、広告業界に属している人は記憶にあるだろう。
戦後、マス媒体と広告会社の間でコミッション・ビジネスが根付き、70年以上にわたって単一ビジネスモデルで業界が回ってきたことは驚異に...