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社会学の視点

なぜ『鬼滅の刃』は世界の心に刺さったのか

遠藤 薫氏(学習院大学)

“誘惑を断ち切らなければ”集合的無意識が、炎を灯した

劇場版『鬼滅の刃』の国内興行収入が遂に400億円を超えた(5月24日発表)。アジア諸国だけでなく、欧米でもヒットを記録している。昨年11月頃、海外有力紙の記者から「鬼滅のヒットの理由」についてインタビューを受けた。現代の心を映しだしているからです、と私は答えた。『千と千尋』は欧米でも評価されたが『鬼滅』は?と彼女。『鬼滅』は欧米でも受け入れられるでしょうと答えたが、彼女は疑わしげに首を振った。

名言が多い『鬼滅』だが、なかでも聴く度に胸をつかれるのは、主人公の炭治郎が、苦しい日々の鍛錬に耐えながら、鬼にされて眠り続ける妹の禰豆子に語りかける言葉だ。

「痛いし、つらいけど…まだまだ頑張らなきゃ。だってさ、いつか兄ちゃんは大人になる。そして、爺ちゃんになって死んじゃって…」「そしたら、鬼の禰豆子は一人ぼっちになっちゃう。それじゃあ寂しいよな、禰豆子。兄ちゃんが必ず、人間に戻してやるからな」(23話)

「いつまでも幸せに生きられるように」ではなく、「孤独な生の中に置き去りにはしない」。人間の生命が脆く、はかないものであることを前提とした上で、その限界を超えた能力や不死性を追求する「鬼」としてではなく、慎ましく定められた時間を「人間」として共に全うすることが...

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