社会全体のデジタルシフトが加速し、あらゆる産業において事業ドメインを再定義せざるを得ないような変革の波が起きている。こうした環境で重要となるのが、組織の求心力となるビジョン。𠮷野家の田中安人氏がリーダーを務める「CMO X VISION」の分科研究会では、ビジョンドリブンの経営の方向性について議論を進めていく。

オンラインでのミーティングの様子。参加者は𠮷野家の田中安人氏、オークローンマーケティングの青谷宣孝氏、オリックスの尾澤恭子氏、スープストックトーキョーの松尾真継氏。
言葉の定義がわかりづらい CMOでも悩むビジョンの課題
𠮷野家の田中氏が率いる「CMO X VISION」。田中氏は𠮷野家でCMOの職を務める傍ら、企業のビジョンドリブン経営を支援する会社であるグリッドのCEOも務める。自社だけでない複数の企業の支援をするなかで、今回の「ビジョンドリブン経営」というテーマの分科研究会を企画した。
最初のディスカッションで田中氏からは「参加メンバーの取り組み事例を共有しながら、ビジョンドリブンの経営をどう実現するべきか。体系化した知にまとめることができれば」との目的が示された。
また分科研究会の開始に先立ち、田中氏は「CMO X」のメンバーに「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」について課題となっていることをヒアリングしていた。その結果、「CMOクラスの人たちでも、このMVVの言葉の定義が明確でないことから、組織内でその企業のあるべき姿が十分に共有されていないという課題が見えてきた」(田中氏)という。
初回のディスカッションでは、参加メンバー各社のMVVの活用内容を共有しつつ、各社におけるMVVの言葉の定義や浸透方法について意見が交わされた。
NTTドコモのプロモーション部長を経て、現在は同社傘下のオークローンマーケティングに所属する青谷氏は「オークローンマーケティング移籍当時にMVVの重要性を痛感した」と話す。
同社はNTTドコモが2009年に買収したが、創業時から独自の理念とカルチャーを持った会社。「『ドコモではこうだった』と話すのではなく、あらゆる社員に話を聞き、文化やビヘイビアを理解することに努めた。その結果、自分の言うことを聞いてもらえるようになっていった。新しい組織に入る際には、その会社が持つカルチャーを学ぼうとする謙虚な姿勢が必要なのだと考えた」と振り返る。
創業者とは別にブランドの人格が必要に
スープストックトーキョーも独自のカルチャーを持つ企業だ。遠山正道氏が立ち上げたスマイルズの1事業だったが、2016年にスープストックトーキョーの分社化を実施。そこでトップに就任したのが松尾氏だ。「MVVのような言葉は使っていないがスマイルズには創業当時から、経営理念や五感(従業員の行動のあり方)がある。経営理念は...