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「不安」と消費者 生活、健康、将来の不安に寄り添う

この組織に任せて安心!と思えるのはなぜ? 社会心理学で読み解く信頼形成

中谷内一也氏(同志社大学)

「過剰な不安は、個人にとっても組織にとってもコストがかる」と話す、同志社大学心理学部の中谷内一也教授。リスク認知研究の観点から、「不安」がもたらされる仕組みと「安心」を生み出すメカニズムについて解説してもらった。

むやみな安心の醸成には、なにがしかの欺瞞が含まれる

ひと言で“コロナ禍における不安”といっても、その対象は幅広い。「自分や家族が感染してしまうのではないか」、「もし感染したら重篤化するのではないか」という、感染に関する不安。

また「いつになったら事態が収束し、日常を取り戻せるのか」「この先、世の中はどうなるのか」という社会生活に関する不安、勤務先や自営の業績といった経済的な不安もある。

個人の健康に対する不安から、社会の先行きに対する不安まで、不安の対象は多岐にわたっても、すべては先々の不確実性に対する不安、つまりはコロナ禍がもたらした“リスクに対する不安”といえる。

リスクがあるから不安になる。それならば、可能な限りリスクを低減できれば不安も解消できるのではないか。その問いに対してリスク認知研究を専門とする中谷内教授は、次のように答える。

「私たちは様々なリスクに囲まれています。パンデミックや災害以外にも、人間関係、さらに老後の2000万円問題が話題になったように、今や長生きすることさえもリスクといえます。こうした環境でむやみに安心を醸成しようとする行為には、なにがしかの欺瞞が含まれてしまう可能性があるでしょう。またリスクをゼロにしようとするならば、そこには莫大なコストが発生してしまいます。そこで企業や行政などの組織が、生活者の不安に働きかけることができるとすれば、それはリスクをゼロにすることではなく、いかに“緩やか”にできるかだと思います」。

さらに中谷内教授は、「多くの企業や行政が“安全・安心”とわざわざ2つの言葉を重ねて使うのは、安全と安心が直結していないから」だと続ける。「安全」とは、客観的・科学的に評価できる状態を指す。一方で「安心」とは主観的なもので心理的な状態を示す。

例えば「食の安全」に関して、1960年代に比べて日本での食中毒死亡者数は激減し、科学的に評価すれば安全性は高まった。しかし人々の意識や価値観の変化、あるいは情報伝達の仕組みが変化したことから、以前よりも食に対する不安は問題になっている。客観的、科学的根拠に基づいて「安全性」を指示しても、それが必ずしも「安心」という感情の醸成につながるわけではないのだ。

リスク認知研究では、ハザードに対する人びとの不安は、それぞれのリスクを管理する、管理組織や管理者への“信頼”と強く結びついていることが、明らかにされている。

「人間は、自分ひとりではすべてのリスクをコントロールすることができない。社会全体で役割分担しながら...

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