自社工場を持つ企業と比較すると、ファブレス企業は工場での製造工程の安全性や透明性、環境への配慮などを用いたプロモーションをしにくいとも言える。ファブレス企業が消費者からの信頼を得て、持続的にブランド価値を向上させていくためにはどのような対策が可能か。知的財産の活用にスポットをあて、弁理士の篠原淳司氏が解説する。
POINT
①技術やビジネスモデルなどの「発明」が企業の社会課題への姿勢を示す。
②特許権=オンリーワンの企業であるブランディング。
③商標権=ブランドを他社から守るプロモーション戦略。
ファブレス企業の サステナビリティ経営
初期投資の少なさ、マーケットニーズに対応する柔軟性の高さといったメリットから、ファブレス経営に注目が集まっています。キーエンスや任天堂といった著名ファブレス企業の高い収益性を目の当たりにすると、短期間で会社を大きくスケールさせたいと考えるスタートアップ企業や、新型コロナウイルスの影響で事業の再構築を迫られている中小企業がファブレス経営に着目するのは当然です。他方で、ファブレス経営は自社工場を持たないので、製造工程の安全性や透明性、環境への配慮といった施策によって消費者に訴求するのが困難とも言えます。
では、ファブレス企業にはサステナビリティ経営や社会の持続可能性に通じるブランディングは不可能なのか。ファブレス企業はどのようにして消費者に選ばれ、自社のブランド価値を向上させていくのか。本稿では、知的財産の活用によってそれらが可能なのかを考えてみます。
確かにファブレス企業が製造工程や環境配慮をアピールするのは困難とも思えます。しかし、だからといってファブレス企業は社会課題の解決に取り組めないかというと、もちろんそんなことはありません。工場を持たずとも、技術やビジネスモデルといった「発明」によって社会課題を解決することは可能だからです。
例えば経済産業省が発表している『日本企業による適応グッドプラクティス事例集』にメビオールという企業が紹介されています。メビオールは研究開発とマーケティングを主体とするファブレス企業です。自社開発したアイメック®*1という技術によって食料の安定供給・生産基盤の強化といった社会課題の解決に取り組んでいます【図表1】。