編集者視点で考えるメディアの未来─グーテンベルクオーケストラ 菅付雅信氏
メディアビジネスの未来はどうなるのか?との問いに、「イノベーティヴな答えを期待するのはやめたほうがいい」と語る菅付雅信氏。多くのメディアのイノベーションが誕生時はビジネスを目的に発明されたものではないからだという。それでは「メディアの未来はどうなるのか?」。“編集者”としてメディアビジネスの域を超えて活動する、同氏が考えるメディアの行く末とは。
広告プランニングの新・潮流 「新・メディアの教科書」
新型コロナウイルス感染症のパンデミック、大統領選、人種差別への抗議デモ…未曾有のニュースが社会をゆるがすなかで、主要メディアの経営状況はどのように変化したのか。ニューヨーク在住のジャーナリストである津山恵子氏が解説する。
新型コロナウイルスの感染拡大が世界最大規模という危機に見舞われた米国。感染者は約3160万人、死亡者は約57万人(4月17日現在)に上り、米経済と社会は、大打撃を受けた。米メディアは、ロックダウン(都市封鎖)令の中、記者らが自宅から活発な取材・報道を続け、購読者・視聴者が急増した新聞やケーブルニュース局もある。しかし、ワクチン接種が進み、経済再開が徐々に始まる中、危機最中の成長が止まり、経営刷新を迫られるケースもある。米メディア業界は、2020年から今日までどんな変化を強いられたのか報告する。
新聞業界は、ニューヨーク・タイムズなど有力紙と中小規模の地方紙の間で、明暗が分かれた。
ニューヨーク・タイムズは、パンデミック(世界的流行)最中の20年第2四半期決算(4~6月)で、デジタル版の売上高が初めて紙媒体の売上高を上回った。経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを除く米全国紙では、初の快挙だ。デジタル版のテコ入れに辣腕をふるったマーク・トンプソン前最高経営責任者(CEO)退任の花道となった。20年9月には、後任にメレディス・レビアン最高執行責任者(COO)が昇格し、CEOに就任。堅調に増加するデジタル購読料収入に比べ、伸び悩むデジタル広告収入のテコ入れが、彼女の使命となる。
直近に発表された20年第4四半期決算(10~12月)によると、アプリ・デジタル版・紙媒体を合計した総購読者数は750万人超。このうちデジタル版購読者は前年比48%増の509万人に上り、パンデミックの1年間で166万人増えた。20年は米大統領選挙の年であり、トランプ大統領(当時)とバイデン候補(当時)の注目の選挙があったほか、世界各地からのパンデミックの現状を積極的に報道したのが貢献した。同社は「25年までに購読者数1000万人を実現」する経営目標を掲げているが、達成は射程距離に入ったといえる。
同社は、ニューヨーク州がロックダウンに入る前の20年3月上旬から、全従業員が自宅勤務を始めた。21年7月上旬まで基本的に自宅勤務を続けるとしており、ニューヨーク・マンハッタン中心部にある本社ビルは閑散としている。
一方、2019年に全米で6700紙あった新聞の大半を占める地方紙は、パンデミックによる経済危機の直撃を受け、多くが人員削減、賃金カット、一時解雇、解雇を迫られた。廃刊に追い込まれたところも多く、ノースカロライナ州立大学のペニー・アバナシー教授(メディア)は20年の報告書で「新型コロナの影響で数百の新聞が失われるだろう」と...