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宣伝担当者が知っておきたいクリエイティブの基本

広告における創造性を広告の外でどう生かすか

小野直紀氏(博報堂 monom)

    クリエイティブ・ディレクションの極意

    ☑クリエイティブディレクションには、自分と社会とものづくりに向き合う「態度」が重要である。

    ☑自分の好奇心・共感・問題意識を総動員して、会社や社会を巻き込む渦となるゴールを設定する。

    ☑広告は表層的になることが多いが、「表層の奥行き」を意識することで本質への橋渡しができる。

事業開発者、編集長、デザイナー 3つの顔を持つCDが考えること

本題に入る前に簡単な自己紹介を。僕はいま大きく3つの活動をしています。ひとつはmonom(モノム)というプロダクト開発に特化した博報堂のクリエイティブチームの代表としていくつかの事業開発を行っています。博報堂が発行する雑誌『広告』の編集長もしています。あとひとつ、社外でYOY(ヨイ)という家具や照明のデザインを行うデザインスタジオを主宰しています。

3年ほどコピーライターとして広告制作に携わっていた時期もありますが、いわゆる広告のクリエイティブディレクターとして仕事をした経験はほとんどありません。

「クリエイティブ・ディレクションの極意」というお題ではあるのですが、ともすると人の感情が大事、チームが大事、指針が大事、細部が大事、云々と、いたって凡庸な内容になってしまいそうだと思いました。そこで、ここでは広告の現場におけるクリエイティブディレクションの実践論ではなく、これまで自分が事業開発をしたり雑誌をつくったりするうえで、大事にしているとても個人的なことを書くことにします。

利己の追求 自分が信じられないことはしない

まず、自分は何かをつくるとき、とにかく利己的であるようにしています。「利他」という言葉がありますが、そもそも「純粋利他」を実践できる人はなかなかいません。同じように「純粋利己」というものもなかなか存在しないのではないかと思っています。「利己」であることが「利他」に通じる。そういう視点で、仕事をするうえで「利己」を徹底的に追求するようにしています。

言葉を変えると「自分が信じられないことはしない」とも言えます。2011年の震災以降、有限な人生において世の中に何を残すかということに向き合うようになりました。そうでないと、モチベーションが続かないし、自分の能力を発揮しきれないと考えています。

2015年にmonomを立ち上げたときは、自分のプロダクトデザインの職能とコピーライティングの職能をかけ合わせて、新しいものづくりのあり方をつくれるのではないかと思い立ち、実行に移しました。

また、2018年に『広告』の編集長の打診がきたときは、様々なものづくりに携わってきた自分が、これから何をつくっていくかを考えていたタイミングだったこともあり、自分に足りない“伸びしろ”を探求するための雑誌をつくろうと、「いいものをつくる、とは何か?を思索するための視点のカタログ」という編集指針を設定しました。

このように、とても利己的な動機なのですが、自分がやることが会社や社会にとってどう意味があるかも合わせて考えています。自分の好奇心、共感、問題意識を総動員して、会社や社会を巻き込んでいく渦となるようなゴールを設定することを大事にしています。

檻から出る 外を知り、中を知るということ

自分が所属する会社や業界、生きてきた環境のなかでつくられた固定観念という檻は、アイデアを考えたり、アイデアを実現しようと動いたりするなかで邪魔になることが多々あります。檻から出るには、まず檻の形を認知することが肝心です。僕の場合はYOYのメンバーとして社外でプロダクトデザインの活動をしたことで、広告業界(檻)を外の世界から客観視するようになりました。

そのうえで、広告会社にいるからこそできる、自分にとっても広告会社にとっても意味のあるものづくりをしたいとmonomを立ち上げました。「広告会社なのにプロダクト開発」という構想は、檻の中にいては生まれなかったように思います。

さらに、檻から出ることの利点は、檻の内部と外部の両方の視点が持てること。一度檻から出たら、出入りは自由です。檻の外部にいることで新しい発想が生まれ、内部を知っていることで、なぜそれをするべきなのかが説明でき、実現の道筋をつくることができるのです。

実は、雑誌『広告』のデザイナーのひとりは電通の社員。博報堂の伝統ある雑誌を電通の社員にデザインさせるなんて⋯⋯と、最初は社内で反発があったのですが、檻の外と内の視点をもって説得し、実現することができました。

また、雑誌『広告』では「価値」を特集したリニューアル創刊号を1円(税込)で販売したのですが、通常の出版社だったらありえないことを、檻の外にいたから自由に発想して実行できたように思います。

ただし、檻の外から勝手なことをするだけでは、檻の中の価値観をないがしろにすることになりかねません。劇薬としてそういうことがあってもいいとは思いますが、ある価値観を否定して生まれる別の価値観は結局、否定されてしまうのが常です。そのため、1円の企画を進める際は、出版関係者や取次、書店の人たちに何度もヒアリングをし、最終的に実施するかどうかを判断しました。

表層の奥行 体験や思想につなげる

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