情報があふれる時代において、無機質で画一的なメッセージは届きづらくなっています。企業コミュニケーションにおいても正確性だけでなく、人の心に響き、心を揺さぶる、発信者側の人格までが伝わる温度感が求められています。しかし、そうしたコミュニケーションは表現技法の問題ではなく、何を発信すべきか?「What」の部分から見直すことも必要です。情報発信の方法や、表現の仕方について、ブランドコミュニケーションのプロフェッショナル2人に聞きました。
共感を醸成する情報発信の極意
☑共感のためには情報を受け取ってもらうだけではなく、「生活者も乗っかれるか」を意識する。
☑重要なのは、ひねりすぎずに「当たり前の情報」から発信を始めること。
☑「手触りのある設定」を作って、ブランドの具体的な性格・振る舞いのルールを決める。
コロナ禍を受けて変わった生活者のブランドに対する期待
私たちの生活を一変させた新型コロナウイルスは、ブランドへの期待にも変化を起こしました。この環境において生活者に「共感」してもらうためにどのようなブランドになるべきなのか。まずは、そこから話を始めていきます。
博報堂が2020年5月に実施した「ブランドへの期待に関する調査」(男女20-60代、n=800)によると、「自分たちにしかできないことに取り組んで欲しい」が85%、「新しく始まる世界にそのブランドらしく役に立って欲しい」が81%と、改めて「そのブランドらしさ」への期待が高まっていることが分かります。また「具体的なアクションに投資をして欲しい」が80%、「ふつうの人の毎日を快適にする取り組みをして欲しい」が87%と、ブランドの行動でよい暮らしをつくり出して欲しい、という生活者の願いも読み取れます。
つまり、これからのブランドは、3つの変化を目指す必要がありそうです。①NO1⇒ONLY1(差別化からオリジナル化)、②:WHAT TO SAY⇒WHAT TO DO(メッセージからアクション)、③SOCIAL GOOD⇒OUR GOOD(社会全体にいいことから私たちにいいこと)、です。
この先は、「自分たちらしい行動で、生活者一人ひとりの幸せに責任を持ってくれるブランド」に、支持や共感が集まっていきそうです。
これからは「共感」の先にある「共鳴」「共振」を目指す
さて、「共感」という言葉を辞書で調べると、「人の意見や感情などにその通りだと感じる気持ち」と出てきます。当たり前のように使われるこの言葉ですが、定義を見ると「発信する⇒その通りだと感じる」という流れ=受発信の関係があることが分かります。個人的には、今の時代、ブランドと生活者は、対等な関係にあるべきだと考えています。少なくとも、ブランドが「偉い立場」ではない。そう考えると、「共感」という言葉もアップデートが必要なのかもしれません。
そんなわけで最近、広告やコンテンツを通じた情報発信で私が意識しているのが、「共鳴・共振」という考え方です。もともとは物理の用語で、「物体が持つ固有の振動数と同じ揺れを外から加えることで、物体が勝手に振動し始める/鳴り始める現象」だそうです(拙い説明ですいません)。情報発信の文脈で捉えると、「ある発信がキッカケになってそのテーマの会話・やり取りが自然に拡がっていくこと」で、「受け取る」でなく「重なる・乗っかる」にイメージが近いと思います。これを、これから目指す新しい共感の形と考えるのはどうでしょうか。
最近、ソフトバンクさんの「NiziU LAB」という仕事をしました。「NiziU LAB」は、NiziU初となるAR(拡張現実)やVR(仮想現実)コンテンツが楽しめるプラットフォームです。生活者に受信してもらうだけでなく、いかに乗っかってもらえるか。私たちが決めた情報発信のテーマは「NiziUとWithU(ファン)の“関係性”を応援する発信」でした。このテーマを起点に、さまざまなクリエイティブを発信した結果、Twitterを中心にファンを巻き込んだ盛り上がりが生まれ、優れた成果を達成することができたのです。
変にひねりすぎずに「透明な資産」を堂々と発信する
NiziU LABはひとつの事例ですが、それでは企業のブランドづくりにおいて、どういった内容の発信が効果的なのでしょうか。
陥りがちなのが、本質とはかけ離れた発信しようとする、いきなりハードルを上げすぎて失敗するパターンです。具体的には、まだ誰にも知られていないブランドに関するニッチなことを発信したり、はたまた右往左往した結果、内容が決まらないために発信すること自体を諦めてしまったり⋯。
おすすめは、この“真逆”を実践することです。つまり、業界では当たり前と思われていること。あるいは、心の底から語れる、自分のルーツや、経験がある領域に絞った発信です。冒頭の話の通り、らしさへの回帰が重要な時代、そして情報がオーバーフローしている時代。重要なのは「普遍」の発信です。社会や生活者に変に媚びたり、競合との差別化を過度に意識したりしなくてよいのです。
さて、広告会社には数多の専門用語があり(しかも多くはカタカナです)、「業界用語」と揶揄されることもあるわけですが、広告業界と同じくらい、それぞれの業界やブランドにも「用語」や「思考」や「ルール」が存在していると思います。これは悪い意味ではなく、中にいる人にはいつの間にか見えなくなった「透明な資産」が積み上がっているということです。「文化」と言ってもいいかもしれません。
ブランドづくりにおいて...