しなくてもいいからこそ価値が高まる? withコロナ時代に変わる移動のインサイト
従来の活動の自粛が余儀なくされるコロナ禍において、人が「移動」というものに感じる価値はどのように変化したのだろうか。「移動者マーケティング」に続き「OUT OF HOMEマーケティング」というコンセプトを掲げるジェイアール東日本企画のプランニングチーム「Move Design Lab」プロジェクトリーダーの中里栄悠氏が、コロナ後の移動とコミュニケーションのあり方を解説する。
新しい「消費」、新しい「商圏」
コロナ禍で、私たちが日々目にするようになった情報のひとつに、ターミナル駅など主要なエリアの人出に関するデータがある。携帯電話が広く普及し、そこから得られる位置情報によって人の“移動”を可視化することが可能になったからこそ受けられる恩恵だ。では、この1年、私たちの移動はどのように変わったのだろうか。NTTドコモの「モバイル空間統計®」に携わるドコモ・インサイトマーケティングの斧田佳純氏が解説する。
NTTドコモでは2013年から「モバイル空間統計®」を事業化している。ドコモ契約者約8000万台(※1)のサンプルから推計した、 “いつ”“どこから” “どのような”人が、“どれだけ”来たのかがわかる人口統計だ。契約者情報を基に性年代・居住地別に調査可能。
さらにdポイントクラブ会員(約4600万サンプル)のデータを掛け合わせ、勤務地や世帯年収、趣味・嗜好といった、100を超える詳細な属性も把握できる。各エリアの人口や属性がわかることで、コロナによる影響の地域差を比較する面的な分析も、感染拡大前からの同エリアの変化を追いかける時系列的な分析も可能となる。
それでは、コロナ禍での人々の“移動”の変化は、どのように分析できるのか。いくつか具体的な事例をまじえ紹介していく。
まず、三大都市圏の主要駅である、東京駅・梅田駅・名古屋駅周辺における14時台の人口を、感染拡大前(※2)を100%とし指標化した値の推移を示す【図表1】。下段は日別のPCR検査陽性者数の推移である。
結果より、PCR検査陽性者数の変動が及ぼす人々の“移動”への影響が読み取れる。人口は、全エリア共通して、第一回目の緊急事態宣言下(2020年4月7日~)が最も減少しており、宣言解除後すぐに戻り始める。その後またしてもPCR検査陽性者数が増加し、8月上旬には“第二波”の到来が騒がれたことで、東京駅周辺は再度人口減少を見せるが、第一回目の緊急事態宣言下の減少率には及ばない。他方、梅田駅・名古屋駅周辺の人口は横ばいの状況が続く。
このように、エリアごとのコロナの影響の差を明らかにすることができ、エリア特性に合わせた施策の検討に活かすことができる。PCR検査陽性者数と比較検証することで、感染拡大の一要因の推定につながる可能性も...