2020年、NHKがインターネット同時配信を開始し、民放も追随する形でシステムの整備が急ピッチで進められている。今後、テレビ局のビジネスのあり方はどのように変容するのだろうか。青山学院大学の内山隆教授に、インターネット同時配信の現状と今後の方向性について話を聞いた。
今年こそ「同時配信元年」? 徐々に進む、システムの整備
インターネット同時配信の現状について内山教授は、「コロナ禍で、視聴率が良くてもテレビ局の広告収入が減少し、これまでのビジネスモデルが成り立たなくなりつつある。さらにNHKが同時配信サービスを開始したことで、いよいよ同時配信への機運が高まってきた状態」と話す。
イギリスではすでに2007年に「BBC iPlayer」がリリースされ、アメリカでは2009年にケーブルテレビ局が「TV Everywhere」のサービスを開始しているなど、欧米に対して日本は10年程度の遅れを取っている状況だ。
「日本の地上波放送は、簡単には停波しないし、番組内容に対する満足度も比較的、高い。メディアとして地上波放送が“優秀”だからこそ、これまでインターネット配信については、議論すらされてきませんでした」(内山教授)。
NHKでは2020年4月1日から、パソコンやスマートフォン向けに常時同時配信・見逃し配信するサービス「NHKプラス」をスタート。一方の民放では、日本テレビ放送網・讀賣テレビ・中京テレビが3社共同の取り組みとして、「日テレ系ライブ配信」を実施。TVerにて、プライムタイムを中心とした合計32番組の同時配信を行ったが、2020年10月から12月までの3カ月間のトライアル的な実施にとどまっている。
インターネット同時配信を進めるにあたって課題となっていることのひとつが、著作権処理に関する問題だ。現行の著作権法では、インターネットで同時配信を行う際、番組で使用した写真や映像、楽曲などについて別に権利者の許可を取る必要がある。
2020年9月からは文化庁を中心に「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に関するワーキングチーム」で議論が進められている状態だが現状の法制度のなかで同時配信を実現しようとすると膨大なコストと時間がかかる。
もうひとつが、配信ビジネスにおける広告収入に関する問題だ。通常のWebサイトと同様に視聴履歴を取得することが可能となるが、視聴データの利活用に関するシステムはまだ整っていない。
「そもそも現状、インターネットに結線されているテレビにおいて『個人を特定しない情報としての視聴履歴を取っている』という事実が、視聴者に知られていないかもしれない」と内山教授は話す。
ヨーロッパの...