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2021年 マーケティング予測

関係者全員の「お悩み事」解決が基点 事業開発もベースにあるのは、顧客理解

中村愼一氏(損害保険ジャパン)

2017年より損害保険ジャパンの新規事業を担当し、2年で7つの事業を立ち上げた中村氏。0から1を生み出すためにどのようなマーケティングに取り組んできたのか。中村氏の経験から、マーケティングの役割やマーケターに求められる要素について話を聞いた。

2年で7つの新規事業を創出 それを支えた顧客理解とは?

私は現職に就いた2017年から、ビジネスデザイン戦略部という部署で、利益100億円を生み出すことを目標に、さまざまな新規事業の開発に取り組んでいます。立ち上げた事業は、2019年までの2年間で7つあります。この7つの事業を立ち上げた2年間を「0→1」だったとすると、2020年は「1→5」へと事業を軌道に乗せる年でした。

当社がこれほど新規事業に注力しているのは、トップの危機感が強いからです。技術が発展し、自動運転の時代になれば、事故はほとんどなくなると予想されます。そうなった場合、当社の売上の6割を占めている自動車保険の価値は相対的に低くなり、保険の価値が見直される時代が目の前まできているのです。このようなトップの思いがないと、ここまでのスピード感をもって新事業を形にすることはできなかったと思います。

新規事業開発は商品・サービスのマーケティングと同様で、まずは対象顧客を理解することから始まります。

しかし、この顧客理解に必要なデータが整備されていないケースが多い。

当社の場合には、顧客データはありましたが、そこから顧客理解を深め、顧客にリコメンドして収益に活かすために活用できる手段は限られていました。

そこで2019年にまずCRMサイト「SOMPO Park」を立ち上げ、新規事業に限らず、すべての事業の顧客IDを統一して、顧客を見える化し、顧客にリコメンドしてビジネスを拡大しようと計画しました。本サービスは、ローンチから約1年で、会員数430万人、月間アクセス数5400万と、企業サイトではトップクラスのサービスになっています。今まで社内で整っていなかったデータ基盤を築くことで、新規事業の創出に役立てています。

ただし、真の顧客理解はデジタルのデータだけでは完結しません。そこで当社の強みである約5万件の保険代理店や、年間4000万通送っている郵送物などのリアルの接点を通じて得られるデータも含めて活用しています。デジタル完結型のビジネスは参入障壁が低いので、すぐにレッドオーシャン化しやすいですが、今から5万店のリアル店舗をつくろうとするのは困難です。既存企業は、この参入障壁の高さ(強み)を活かすべきで、既存のアセットと他社の強みを活かして、スピードを買うのがビジネスの基本です。

図表1 ビジネスデザイン戦略部の目指す姿
次期、中期経営計画の柱となる新規事業を2年間で7つ立ち上げた。

継続した接点をつくる 顧客理解から生まれたサービス

例えば、駐車場のシェアリングサービスである「akippa」は、代理店網とSOMPOデータを活用して、自動車解約保険ユーザーに対して、「必要のなくなった自宅の駐車場を貸し出しませんか?」と提案しています。

当社では国内で保険を解約したユーザーの3分の1が把握できています。そして解約したユーザーについて思考を巡らせると「解約→自動車を手放した→駐車場が開いているかもしれない」と予測できます。

自動車を手放した理由として、年齢を考慮して免許を返納した方も多い。「akippa」は老後の生活費に不安が残るなかでは、免許を返納した高齢者(駐車場オーナー)に駐車場シェアの収入で年金の不足を補う新たな収益源としての価値を保険代理店経由で提供していきます。

さらに、「akippa」のオーナーを開拓した保険代理店側に手数料が入ります。ユーザーが保険を解約したとしても新たな収入源を確保できますし、ユーザーとの接点を維持できます。時間が経って、もし、今度は「akippa」解約の依頼があれば、息子や孫が新しい自動車を買うことが予測でき、保険の契約につなげることも可能です。

もちろん、「SOMPO Park」自体も顧客との単純接触効果を高めるサービスとなっており、ブランドの親近感増加にも貢献しています。実際に、ネット・プロモーター・スコア(NPS®)も、サイト来訪回数や保有ポイントが高いユーザーほど、高いという結果が出ています。今は、SOMPOデータをリテール商品企画の部門や営業推進部門などとどう連携して、既存事業に活用するかという取り組みも進めています。

顧客視点に立つマーケターに求められる役割とは?

新規事業に限らず、マーケターに求められるのは、やはりそれぞれの視点に立つということです。当社であれば、エンドユーザーを始め、保険代理店、社内の関係各所、それぞれの視点を持って「お悩み事」を解決するには、どうすればよいかを考える。そしてそこから、仮説を設定し、シナリオを書き、高速でPDCAを回し、改善していく。これができる人はそう多くありません。ただ、最近はマーケター出身の経営層も多いことから、経営にもより求められていると思います。

最近は、バズワードに踊らされているマーケターも多いように感じます。例えば、少し前に「MAツール」というワードがさまざまな場所で聞かれましたが、「MAツール」は導入すれば、全てがうまくいくツールではなく、マーケターのシナリオを書く力があって、初めて効果を発揮するものです。

新しいソリューションを導入・活用してもよいですが導入が目的になってしまっては、本末転倒です。全体のマーケティング施策を実行する上で、そのソリューションがあれば、より効率的であると分かって初めて導入すべきものなのです。

今の「DX」も、それ自体が目的となっている傾向があるように感じています。

若いうちは、何事も「やってみること」が重要だと思います。まずは、PDCAを高速で回して、改善していく。そして、先行の他社事例もよく研究するとよいでしょう。他社事例というのは、他社がPDCAを回した結果なので、活かすことができます。

あとは、やはり人脈づくりも重要だと感じています。社内もそうですが、実は社外がとても重要です。マーケターなどが集まるイベントなどで情報交換ができる人脈を広げたり、SNSで発信することも有効です。著名人になれればそこから、必然的にさまざまな人がついてきます。若いうちは容易ではないですが、そのような意識するだけでもよいと思います。

損害保険ジャパン
執行役員
ビジネスデザイン戦略部長
中村愼一氏

新卒でパナソニックに入社し、FA機器の営業後、2000年よりプロバイダーのパナソニックハイホーのコンテンツを企画。2001年よりコンテンツを担当するハイホーシーアンドエーの社長に就任。2008年よりパナソニックの会員サイト「CLUB Panasonic」を創業し、10年で会員数1000万人、月間アクセス数2億アクセスまで拡大。日経BPのブランドランキングでは単体でYahoo!・楽天と並び5位に。2017年11月現職。

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