ステークホルダーに対して発信を求められる企業の責任とパーパスとは?
コロナ禍は、消費者にとってこれまでの習慣を見直す機会となり、企業にとっては自社のブランドの存在価値を改めて考え直す機会となっている。消費者向けのマーケティングだけでなく、従業員を含むあらゆるステークホルダーとブランドの姿勢を共有することが求められる今、企業はどのようにコミュニケーションを考えればよいのだろうか。一橋ビジネススクールの阿久津聡教授に話を聞いた。
2017年より損害保険ジャパンの新規事業を担当し、2年で7つの事業を立ち上げた中村氏。0から1を生み出すためにどのようなマーケティングに取り組んできたのか。中村氏の経験から、マーケティングの役割やマーケターに求められる要素について話を聞いた。
私は現職に就いた2017年から、ビジネスデザイン戦略部という部署で、利益100億円を生み出すことを目標に、さまざまな新規事業の開発に取り組んでいます。立ち上げた事業は、2019年までの2年間で7つあります。この7つの事業を立ち上げた2年間を「0→1」だったとすると、2020年は「1→5」へと事業を軌道に乗せる年でした。
当社がこれほど新規事業に注力しているのは、トップの危機感が強いからです。技術が発展し、自動運転の時代になれば、事故はほとんどなくなると予想されます。そうなった場合、当社の売上の6割を占めている自動車保険の価値は相対的に低くなり、保険の価値が見直される時代が目の前まできているのです。このようなトップの思いがないと、ここまでのスピード感をもって新事業を形にすることはできなかったと思います。
新規事業開発は商品・サービスのマーケティングと同様で、まずは対象顧客を理解することから始まります。
しかし、この顧客理解に必要なデータが整備されていないケースが多い。
当社の場合には、顧客データはありましたが、そこから顧客理解を深め、顧客にリコメンドして収益に活かすために活用できる手段は限られていました。
そこで2019年にまずCRMサイト「SOMPO Park」を立ち上げ、新規事業に限らず、すべての事業の顧客IDを統一して、顧客を見える化し、顧客にリコメンドしてビジネスを拡大しようと計画しました。本サービスは、ローンチから約1年で、会員数430万人、月間アクセス数5400万と、企業サイトではトップクラスのサービスになっています。今まで社内で整っていなかったデータ基盤を築くことで、新規事業の創出に役立てています。
ただし、真の顧客理解はデジタルのデータだけでは完結しません。そこで当社の強みである約5万件の保険代理店や、年間4000万通送っている郵送物などのリアルの接点を通じて得られるデータも含めて活用しています。デジタル完結型のビジネスは参入障壁が低いので、すぐにレッドオーシャン化しやすいですが、今から5万店のリアル店舗をつくろうとするのは困難です。既存企業は、この参入障壁の高さ(強み)を活かすべきで、既存のアセットと他社の強みを活かして、スピードを買うのがビジネスの...