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社会学の視点

人の心を活性化する「ノスタルジア」という感情

遠藤 薫氏(学習院大学)

拡張現実とノスタルジア効果

もう50年続いている『遠くへ行きたい』(日本テレビ系列で放送)という旅番組がある。知らない街を歩く、というコンセプトの番組なのだが、その町並みは誰にもどこかノスタルジアを感じさせ、胸がきゅんとなる。私も遠くへ行きたいけれど⋯せめて近くを歩いてみよう。

横浜市営地下鉄戸塚駅の隣に、「踊場」という駅がある。駅名に惹かれて電車を降りると、なんだか不思議な気配。見回せば、ホームのそこここに猫の足跡のようなものがある。コンコースの壁面には、大きな菱形のデザインが。猫の目がじっとこちらを見ているようだ。ここは「注文の多い地下鉄駅」なんだろうか。改めて目を凝らすと、伸びをしたり、二本足で立ったり、猫のシルエットがあちこちに⋯さらに階段を上り詰めれば、天井に三匹の猫が踊る。何なんだ、この駅は。外に出たらもっと奇妙な世界が待っているのか。

もちろんそんなことはない。駅の外はあまりにも普通の住宅街だ。そこは小高い丘の上で、結構交通量の多い道路がある。もう空は夕焼けに染まりはじめている。交差点近く、古い石碑があった。「踊場の地名は伝説として古猫が集り、毎夜踊ったことから生じたと言はる」とある。何と1737年、いまから300年も前に...

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